10年モノの約束

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『30歳になった時、お互いに相手がいなかったら結婚しようね』  10年前。  10歳の時に同じクラスだった保志(ほし)くんと幼い約束をした。  初恋だった。  保志くんのことが好きだった私は、それでも直接言うのが照れくさくて、マンガで読んだ知識を元に、遠回しな言い方で告白をした。  とはいえ、当然保志くんもそれを告白だなんて思わなくて、「はは、いいよ」と安請(やすう)け合いされただけだったけど。  だけどそんな約束だけで、私は何回も何回も、夜寝る前に、『私はいつか保志(ほし)美奈(みな)になるんだ』と妄想したものだった。  最近すっかり忘れていたそんなことを思い出したのは、この人生に一度きりの特別なシチュエーションだからだろう。  なんせ、今日は20歳の誕生日。  そして、私の目の前にはベルベットの小箱と、そこにおさまるシルバーリングと、それを差し出す珍しくスーツの男性。 「……ちょっと、早くない?」  そう。  たった今私は、高校の卒業式の後に告白されてそれから付き合っている彼氏からプロポーズを受けている。 「ごめん、待ちきれなかったんだ。でも、おれたち2人とももう働いて1年以上経つんだから、そんなにおかしくないだろ? せめて美奈(みな)が20歳になる日に伝えるって決めてて……」 「まあ、そうだけど……」 「ダメか……?」  こちらの表情を(うかが)う彼氏を見ていると、そんな表情をさせてしまってごめんね、と思う。 「ダメとかじゃなくて、二十歳で結婚するなんて思ってなかったから……」  だけど。 「一生、幸せにするから」  そう言い切った彼を見て、ああ、この人で間違いないな、と思った。 「そっかあ……」  私は微笑(ほほえ)み、心の中でそっと10年前の自分に謝る。  ごめんね、10年前の私。  あの約束は果たすことは出来なそうだよ。 「……はい、喜んで」 「良かったあ……」  安心した彼の表情をみながら、今度は10年後の私に心の中で語りかける。   ねえ、10年後の私。  多分、10年もしたら、彼のみっともないところも見えてくるだろうし、むかつくこともあるだろうけど、どうか離れたりせず、仲良くやっていて欲しい。  だってあなたは、私が憧れ続けた、保志(ほし)美奈(みな)なんだから。
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