しゃぼんだま。

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小さいちいちゃんの、小さいひざの上。 そこはワタシの特等席。 ふかふかで、ふわふわで。 まるで日だまりみたいに、あたたかくて。 とても、居心地がいいの。 「ね、みー子。みててね」 ひろいひろい原っぱの上で、ちいちゃんとっても得意な顔をして。 みどり色の長細い棒を口にくわえて、そこに、ふぅー、と息を吹きこんだ。 ふぅー。 もういちど、ふぅー。 ちいちゃん、まるで、わたげを飛ばすときみたいに、やさしく、ゆっくり息を吐く。 そのうちそれは、とても大きなしゃぼんになって、空に、ふわっと浮かび上がった。 ふわり。 もうひとつ、ふわり。 気づいたら、辺り一面、しゃぼんだらけ。 ちいちゃんも、ワタシも、木も、空も、原っぱも。 みーんなしゃぼんに映ってる。 それを見て、ワタシ……とても素敵だと思ったの。 ちいちゃんと、ワタシ。いつだって、こんなに近くにいる。 それが、すごく、うれしかったの。 「あっ」 小さなちいちゃんが、小さなかわいい声を出す。 それから少し、しょんぼりしてる。 どうやら、しゃぼんの時間が、終わってしまったみたい。 ひとつ。 またひとつ。 あれだけたくさん浮かんでいたしゃぼんも、気づいたら、全部消えてしまっていた。 ……さみしい? まさか。 ワタシ、おとなだもの。全然さみしくなんてないわ。 ……ううん、うそ。 ホントは、ちょっとだけさみしいの。 でも、しゃぼんって、そういうものだものね。 「にゃー」 ねえ、ちいちゃん。 10年後のことって、考えたことある? ちいちゃん、まだ小さいから、そんなのないかもしれないけれど。 ワタシ、最近よく考えるの。未来のこと。 10年経ったら、ちいちゃん、きっと今よりうんと大きくなって、うんとキレイになってると思うけれど。 でもね、ワタシ、その時にはもう、おばあちゃんだから。 不安なの。 もしかしたら、その時、こうして、ちいちゃんのひざの上にいられないかもしれないって。 ……あ、うそうそ。ワタシ、ずぶといもの。 そうね。今度、10年後の自分に手紙でも書いて送るわ。『ちゃんと、ちいちゃんのそばにいてあげなさい』って。 ちいちゃん、泣き虫だものね。 ……でも、もしワタシがいなくなってしまったら。その時は、目を閉じて思い出して欲しいの。 ほら。目を閉じれば、今消えてしまったしゃぼんだって、たくさん浮かんでみえるでしょう? ワタシ、ちいちゃん大好きだから。いつだって、会いにいくわ。 だから、その時は。またぎゅっとワタシを抱きしめてね。
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