かつてのクイズ番組

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「1分、10分、100分、1000分、10000分、100000分、1000000分、10000000分、100000000分、さて、この中で10年に一番近いのはどれ?」 いつも楽しみにしているクイズ番組で問題が読み上げられる。 4名参加している回答者が一所懸命みんなで指折り計算を始めたところ、一人の回答者が回答ボタンをたたきつける。 「一千万分!」 司会者がそれに答える。 「残念ー。1億分は190年です。1千万分は19年です。百万分は1.9年。よって10年に近いのは百万分という事になります。あてずっぽうですか?」 悔しがる回答者。 「はい。一か八か。」 「そうでしたか。なかなかむつかしい問題でしたね。」 男はテレビの中のそのやりとりを一通り眺めると、少し苛々しながらテレビの電源を切った。 「2年ってたった百万分しか無い。」 男は独り言を言いながらカップラーメンの蓋を開け、麺を勢いよく口の中に啜り上げる。 部屋の外を窓から眺める。暗い霧に覆われた景色が広がる。地上は核戦争で汚染され、僕を含め人類は地球上にもはや数千人しか居ない。 小さな小さな居住区に集まり、鳥獣や見たことも無い虫たちの来襲と戦いながら、身を潜めて生きる毎日が既に10年経過していた。 10年前、「コロナウィルス」というウィルスが人類をこれまでにない未曽有の危機に陥れた。 殺人ウィルスがじわじわと地球上の人類を汚染して行った。そして世界中で多数の命を奪った。 先進国はなんとかその裕福さを背景に生き延びようとしたが、貧しい国々は成すすべが無く、やがて飢饉や干ばつに歯止めがかからなくなり、軍事的に内戦が頻発するようになった。 多くの貧しい国々ではクーデータが発生し、軍部が政権を掌握するような事が起きた。 その中で中東の核兵器を保有する国家で、国家元首を暗殺するクーデターが発生した。そして核ミサイルを世界中に向けて発射する事態が起こった。 核ミサイルは全ての先進国に向けて発射される。そして程なくして先進国から報復攻撃が行われ、世界は全面核戦争に突入した。 地上は国土と人口の98%を焼失した。 実はこのクイズ番組、既に10回以上繰り返し見ている。 戦争が起こる前に放送された番組のデータである。つまり地上が平和だった時代の記憶なのだ。 10年前の僕等へ。 何故戦争を食い止められなかったのか。 それを問いたい。 (おわり)
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