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その日の朝、検診に行く君を病院まで送った。
「終わったらラインして。迎えに来るから」
「わかった。帰りにスーパーで買い物しよ」
そんな普通の会話だった。手を振って別れた。たったそれだけ。
仕事に集中していると、すでに夕方になっている。午後1時に検診の予約だったから、送ってからもう4時間?ちょっと遅くないか?とスマホを確かめた。
メッセージも着信もない。相手が病院にいると電話もできないし、困ったな。
と、思っているとブブブッとスマホが震えた。着信だった。
「笑?終わった?」
「もしもし、涼ちゃん?あのね、ごめんね、私このまま入院することになっちゃった」
「えっ!どうした?」
「なんかね、急に蛋白とかの数値が上がっちゃって、赤ちゃんがあんまり育ってないんだって。妊娠中毒症の症状があるみたいで」
「まじか…このまま入院なの?」
「うん。それで悪いんだけど、あのガラガラ、持ってきてくれないかな。入院の準備してあるから。あと、マスクもお願い」
「うん、わかった。大丈夫なんだよな?病室は?」
「それがね、今コロナの影響で入院したら面会できないんだって。荷物は受付に預けてくれる?スタッフの人が届けてくれるから」
「まじか。入院ていつまで?」
「多分…生まれるまで」
出産予定日まで、まだ1か月以上ある。予想外のことに頭がついていかなかった。
病院の駐車場に車を止めると、いつもの入り口ではなく通用門のような所に回された。警備の人に声を掛けられ事情を話すと、用紙に名前を書かされて、手の消毒をしてからやっと中に入れた。
受付にいたスタッフにキャリーケースを預けると、もうやることはない。
総合病院の産婦人科って何階だろう?それだけでも確認しようとエレベーターに向かったけど警備の人に止められてしまった。病院って、こんなにおっかない所だったっけ?
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