ずっとあい死てる

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妊娠が分かった時、君が話してくれたことを思い出していた。 子供の頃、小児喘息を患っていたこと。 小学生になってスイミングを始めて、だんだん良くなってきたこと。 大人になってからも低気圧の日は息が苦しくなること。 台風が来ると発作が出ることもあるからと吸入器を用意していた。 コロナは肺炎を起こす。喘息患者は重症化しやすい。そして妊婦が飲める薬は限られている。 何重にも重なる不安要素。 『赤ちゃんね、多分男の子だよ』 『なんで?』 『昨日ね、夢を見たの。三歳ぐらいの男の子が涼ちゃんと一緒に寝てた。おんなじ寝相で』 『なんだそれ。予知夢?』 『わかんないけど、すごく平和な夢だったな。男の子なら涼ちゃんに似るといいね』 『なんで?』 『だって私ににたらちっさくて可哀そうだもん』 『巨人が二人になるけどいいの?』 『しょうがないからがまんする』 子供の性別は生まれるまで聞かないつもりでいた。 男の子でも女の子でも、どっちでもいい。名前もまだ決めていなかった。 俺も君も漢字一文字の名前だから子供もそうしようって、決めていたのはそれだけだった。 まだ、生まれるまでには時間があったから。 もう少し考える時間があったはずだったんだ。 君とのラインはじれったいほどスピードダウンしながらも、細々と続いていた。 他愛もない会話だったけど、返信が来るとほっとした。 既読がなかなかつかない日があったり、返信が遅かったりすると心配で。 入院する前は本人が「鬼返し」と言うくらいの超スピードで返ってきた返信だ。 ひどくゆっくりとした間合いで、ひらがなや誤変換が増えていることも気になっていた。 ただ無事に、一日一日が過ぎてくれることを祈るしかなかった。 それなのに… 唐突にその日はやってきてしまった。
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