十年前と、十年後

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十年前と、十年後

 十年前/十年後の君へ、というコンテストが開催された。  それは僕が普段書いている小説投稿サイトで開催されたもので、一日限定のコンテストだ。しかし、残念なことになかなか思い付かない。  そもそも、君を誰にするか、が問題だった。 「駄目だ、思い付かない」  部屋で篭っていては、思い付くものも思い付かない。そう切り替え、外に出る。風が髪を揺らし、目に見慣れた町並みが写った。日向に出れば暑いが、風は心地よい。悪くない天気だ。  取り敢えず、当てもなく歩く。  君は誰にするか。自分。彼女、あるいは彼。家族。友人。  歩いて歩いて歩いて、町を眺める。  自転車を漕ぐ学生、重たそうな買い物袋を運ぶ主婦、忙しなく歩くサラリーマン。  時間は均等に進んでいき、それに伴って人々の様子も移り変わる。この町は、越してきてから何も変わっていない。  いや、変わっていないように見えるだけで、変わっているのかもしれない。  僕が見えている範囲で変わっていないだけかもしれないし、気付かない程に少しずつ変わっているだけかもしれないのだ。  越してきた十年前には、どうであっただろうか。確か、同時期に小説を書き始め、同小説投稿サイトに投稿を始めたのだ。  十年前、小説を書いた時にはこうなると思っていなかったし、サイトもこうなるとは思っていなかった。  何気なく思った時、足が止まった。  ――これだ。  一気に灰色の世界が色付いた気がする。最も、元々世界は明るいし、比喩だとしてもそんなに落ち込んでいた訳ではない。  だが、思い付いた途端の感情の昂りとの落差を表すには、それくらいが程良かったのだ。  思いついたのだから、早く帰らなければ。  空には橙が見え始め、町を染め始めている。  夕日を背に、駆け足で家に向かう。タイトルは、そうだな――十年前の小説? 十年前の小説投稿サイト? なんだか微妙だ。  十年前の様子だけではなく、十年後にどんな様子になっているのかも書きたいのだから――十年後も含まなければ。  でも、小説や小説投稿サイトをそのままタイトルに出すべきなのだろうか。  ああ、そうだ。パズルのように、答えが当てはまるのを感じる。  十年先の君は、どんな風になっているのだろうか。  その意味を込めて、このタイトルにしよう。  十年と、君へ。  さあ、書き始めなければ。
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