ごめんなさい、過去の私

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 十年前の私へ。  あなたに謝らなければならないことがあります。  十年前の私が夢描いていたキャリアプランは何一つ、叶えていません。  司法試験はがっつり落ちて検事にはなれなかったし、結婚するって言ってた彼とも、まあ割と早い段階で別れたし、そっからずっと一人だし。多分今、一人目の子育てしてる予定だったと思うけど、そんな予定全然ないです。  小説はね、書き続けてるよ。でも、十年やってて箸にも棒にもひっかかってません! 驚異! 逆によく続けてるよね、びっくり。  検事と小説家の二足のわらじ! とか言ってたのにねー。ウケるー。  庭付きの戸建てを買う予定はありません。ハスキー犬飼うっていってたけど、三毛猫が今家にいます。  で、何が一番ごめんかっていうと、今がとっても楽しいことです。  あなたが描いていた未来とはまったく違う道をいっているのに、負け惜しみとかではなくて、本当に私は今、楽しいです。いや、嫌なこともあるけどね。毎日毎日を思うと嫌なことだらけなんだけど、不思議とトータルで見ると楽しいんだよね。  民間企業で普通にこれまでの勉強関係ない仕事をしているのも、結婚の予定はないけど猫飼ってるから一人じゃないし、小説も読んでくれる人いるから楽しいし。  私、適応能力高いみたい。その場にある幸せを最大限享受できるっていうか。  だから、ごめんね。落ちたら死ぬと思ってた試験に落ちても、別れたら死ぬと思ってた恋人と別れても、あなたは死なないです。全然死なない。そして、その時は辛くてもなんだかんだ毎日は楽しいです。本当にごめんなさい。  だから、大丈夫だから、もう少し肩の力を抜いてください。マジでそんなことで人は死なないです。
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