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十年前の殺人鬼さん。
皆殺しにしてくれてありがとう。
皮肉とかじゃなくて、心の底から感謝しているの。
殺人鬼さんのおかげで、私は誰からも虐められることが無くなったんだもの。
私には産まれつき、顔を覆いつくすような黒紫色の痣があること、殺人鬼さんは知っているよね。
私は痣のこと、これっぽっちも気にしてはいなかったのだけれど、村の皆はそうではなかったみたい。
たくさん、酷いことを言われて、傷つけられたりした。
だけど、お母さんがいてくれたから平気だったよ。
お母さんは、毎晩、私の顔の痣を、その細い指で撫でてくれた。
お布団のなかでお母さんに抱き着くと、心地よい香りで、すべてのことがどうでもよくなって、このままお母さんとずっと二人きりの世界で暮らしていたい。そう思いながら眠りに落ちることができたんだ。
村の皆からの意地悪は、だんだんと、はっきりした暴力に変わっていった。
それまでは、心が傷つけられていたけれど、身体が傷つけられるようになっちゃった。
殴られたり、蹴られたり、産まれつきじゃない痣がどんどん増えていくんだ。
投げつけられた石がおでこに当たって、どろどろ血を流しながら家に帰ったこともあった。
殺されるかもしれない。そう思った。
だから、仮面を被った殺人鬼さんが錆びた手斧で村の人たち全員の頭を叩き割ってくれたとき、私、本当に感謝したんだよ。
血塗れの殺人鬼さんに抱き着きながら、ずっと、生きていられるんだ、って。
私とお母さんは、二人で、誰からも虐げられることがなく生きていけるようになった。
未だに私は毎晩、お布団のなかでお母さんの柔らかい匂いに包まれながら眠っている。
十年前の殺人鬼さん。
あなたに抱き着いたとき、お母さんと同じ優しい匂いがしたよ。
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