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「行こうか。」
「うん!」
朝食と洗濯を終えた後でお互い温かい格好に着替え、ショッピングモールに向かうために静留と手を繋いで玄関のドアを開ける。
外は家の中以上に寒く、しとしとと雨が降っていた。
「ううっ、さむい… 」
「うん、早く車に入ろうね。」
震えながら腕にしがみついてくる静留が濡れないように傘を差し伸べ、彼を助手席に座らせてから東弥も運転席に座る。
暖房が効いて車内が暖かくなると、静留は結露した窓に指で絵を描いて楽しげに鼻歌を歌い始めた。
「何描いてるの?」
信号待ちでふと彼の手元を覗き込めば丸い耳のついた可愛らしい動物の顔が描いてある。
「えっと、ね、…うさぎさん…?」
「すごい。上手だね。」
首を傾げながらいう姿が可愛くて東弥は思わず口元を綻ばせた。
うさぎの耳が丸くないことなどは全く問題ではない。
「ありがとう。」
静留が嬉しそうに笑い、また窓に絵を描こうと人差し指を伸ばす。
しかしその指先がわずかに赤くなっていることに気が付き、東弥は静留の右手を掴んで絵を描くのを止めさせた。
「こんなに冷たくして…。だめだよ、大切な指なんだから。」
「あ、…ありがとう…。」
信号が青に変わり東弥がハンドルに手を戻した後、静留はなぜか顔を赤く染め視線を左右に泳がせた。
少し暖房をかけすぎただろうか。
「暑い?」
「…うん、熱い…。」
「ごめん。少し下げるね。」
「えっ…?」
暑いと熱いの認識違いが起こっていることを東弥が知る術はない。
結局ショッピングモールに着くまでの間、車内の温度は下げられたままだった。
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