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アンコールまで終えた静留は東弥の腕に抱きつき眠ってしまい、東弥はその華奢な身体を自分の座っていた椅子に座らせ、白い頬にそっと触れた。 長い睫毛が綺麗に影を落としている。 あどけない寝顔はこの上なく愛おしい。 見惚れていると、しばらくして梨花が入ってきた。 「和泉君お疲れ…って、もう寝ちゃったか。東弥君、楽屋にお友達が来てるけど、どうする?」 コンサートがいつにも増して盛況だったからか彼女はとても楽しそうだ。 「俺行ってきます。戻ってくるまで静留のことお願いしてもいいですか?」 「うん。ゆっくり話してきて。」 「ありがとうございます。」 静留を残して楽屋へ向かう。 疲れている彼を起こしたくないと言う理由もあったが、それ以上に彼をこれ以上誰かの前に晒したくないと言うみっともない執着に駆られていた。 彼が魅力的なのがいけない。 一旦そう思って東弥は首を横に振る。 __…違う。悪いのは俺の心の狭さだ。静留が魅力的なのは別に今に始まった事ではないのに、俺、どうしたんだろう…。 このまま自分は彼のことを縛り付けてしまうのだろうか。 そうしたら彼が不幸になってしまう。それはいけない。 急に暴走を始めた支配欲に混乱しながら楽屋の前まで行くと、楽屋の前には谷津、真希、由良、幹斗の4人が来ていて、幹斗は花束を胸に抱えていた。 「静留君は?」 「…疲れて寝ちゃって…。」 なんとなく気まずさを感じながら幹斗の問いにそう答える。 「そっか。あんなに凄い演奏をずっとしてたんだから、そうなるよね。」 「ごめん、せっかく来てもらったのに。」 「全然。貴重な体験をありがとう。あとこれを静留君に。すごく良かったって、伝えておいて。」 言いながら幹斗が差し出した花束は、よく見ると花束ではなかった。 花ではなくキャンディーやチョコレートなどのカラフルなお菓子で構成されている。 「みんなで相談して、お花よりは食べれる方がいいかなって思って作ったの。案は秋月さんから。」 「静留君甘いもの好きって言ってたもんねー!真希ちゃんと秋月さんと幹斗と昨日4人で集まって作ったんだー!びっくりした!?」 驚いて目を丸くした東弥に真希と谷津が明るく説明をしてくれた。 「ありがとうございます。」 __…こんなにみんないい人たちなのに、俺は…。 静留をこの場に連れてこなかったことへの罪悪感が募る中で、ふと由良はそうではないのだろうかと疑問に思う。 彼とは同じSランクで相手は同性で共通点が多いが、彼はどうなのだろうか。この強い支配欲とどう向き合っているのだろう。あるいは東弥がDomとして未熟だからこのように支配欲の暴走に押しつぶされそうなだけなのだろうか。 「僕の顔に何か?」 しばらく考えていると、優しく微笑みを浮かべた由良から穏やかに尋ねられた。知らないうちに彼に視線を集中してしまっていたらしい。 __いけない…。 「いえ、何も…。」 必死で動揺を隠し何もない風を繕う。 しかし彼のその深海を思わせる藍の瞳からはなんとなく目をそらすことができなかった。 「東弥君、少し2人で話さない?聞きたいことがあるんだ。」 再び物腰柔らかく尋ねられ、反射的に首を縦に振る。 「…ごめん幹斗、少しだけ秋月さんと話してきてもいい?」 「俺に許可を取ることでもないよ…?」 「…ありがとう。これ、楽屋の鍵。中で待ってて。寒いと思うから。」 「うん。行ってらっしゃい。あっ、ブーケも預かるよ。」 「…ごめん、よろしく。」 幹斗にブーケと鍵を渡すと由良と2人きりになった。
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