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実家には母が取ってくれた飛行機のチケットで行き、はじめ静留は飛行機を少し怖がっていたが、途中からは東弥に寄り掛かり眠ってくれた。
そして空港からの移動はタクシーで。
東弥一人なら節約するところだが静留がいる今回は母の財力に甘えさせてもらうことにした。
「着いたよ。」
眠っている静留の肩を優しく揺するとゆっくりと瞼が開かれ、その瞳が東弥を映した途端にふにゃりと愛らしく笑んだ。
「おはよう、東弥さん。」
「おはよ、静留。」
目覚めの口づけの代わりに頭を撫で、それから荷物と共にタクシーを降りる。
「…おおきい…。」
門扉の前で家を見た静留が目を真ん丸く見開いた。
確かに静留と東弥が住んでいる家に比べてもこの家は大きく立派で、そもそも子供の頃から東弥は自分の家が他より裕福であることを自覚している。
「うん、多分結構大きい。」
「おしろみたい…。」
そこまでではないよ、と口元を綻ばせながら言おうと思ったところで家の方からかつかつと規則的な音が聞こえてきた。
次第に見知ったシルエットが近づいてくる。
「東弥お帰り。傷はもう大丈夫そうで安心したわ。」
ばっちりとしたメイクに高いヒールのショートブーツ、ピッタリとしたVネックのニットにタイトなレーザースカート。
昔からあまり見た目が変わらないその人は、不敵な笑みを浮かべながら芯の通った声で東弥に告げた。
驚いたのか静留はピクリと肩を震わせ東弥の背中に隠れてしまう。
「久しぶり、母さん。」
「2ヶ月ぶりくらいよ。そんなに久しくないわ。それと…静留君、あの時はごめんなさい。息子がここまで奥手だとは思わなくてひどいことを言ってしまったわ。寒いから入って。おわびになるかは分からないけど、気にせず寛いで頂戴ね。」
静留は何か言いたげに口をぱくぱくしていたが、結局話すタイミングが見つからず口を閉じたようだった。
いつもそうだ。東弥の母は話したいことを簡潔にばっとまとめて話すため、相槌を打つ隙がない。
その上言いたいことを言った後は引き留めない限り即座に去っていってしまう。
まだ背中に張り付き固まったままでいる静留の方を振り返り甘いglareを放ってやると、彼はやっと安心したように硬く結ばれた口を解いた。
「驚かせてごめんね、悪い人じゃないんだけど、いつもああいう感じなんだ。中に入ろうか。」
「うん。…でも、ありがとう、いえなかった…。」
__可愛い。
しょんぼりとうさぎのマフラーに顔を埋める姿があまりに可愛くて、危うく彼を抱きしめかける。
しかしここは家の前で、その上外だ。
なんとか衝動を堪えた東弥はもこもこの手袋を纏った静留と手を繋ぎ、足並みを揃えてゆっくりと、実家のドアをくぐった。
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