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楔を中から抜いた後、唐突に東弥が抱きしめる腕を解き、“風邪ひいちゃうから”、と言いながら先程脱いだカーディガンを静留に雑に着せた。
どうして離れてしまうのだろう。静留が何か東弥の気に入らないことをしてしまったのだろうか。
大きな不安に包まれながら彼を見つめたが、彼はこちらを振り返らずにシャツを羽織り、ヘッドボードに手を伸ばしている。
何かを探しているみたいだ。
先ほどまであんなにもぴったりと東弥の肌と重ねられていた肌は、まだその名残で熱を帯びており、そのせいで余計に服の隙間から入る空気の冷たさを感じてしまう。
柔らかな布と肌が擦れる感覚も、また悲しい。
寂しさに耐えきれず静留は目を固く閉じたが、そうしてからすぐベッドと静留の背中の間に大好きな彼の手が入れられた。
そのまま抱きしめるようにして起こされ、東弥の膝に乗せられる。
「静留。」
大好きな低い声が、優しく静留の名前を呼んだ。
顔を上げて目に入ったダークブラウンの瞳は柔らかに細められており、口では何も言わずとも、その瞳が静留に愛おしいと伝えてくれる。
だから静留は黙って彼の言葉を待った。
骨張った大きな手が静留の手を優しく掬う。
「静留、愛してる。」
「えっ…?」
続いた言葉と考えていた言葉との差異が大きすぎて静留は変な声を上げてしまった。
そのことについて彼が何かを気にする気配はなく、再び端正な唇が開かれる。
「この、誰よりも美しい音を奏でる手が好きだよ。」
言いながら、手の甲にそっと口付けられた。
突然の告白に再び心臓がうるさく鳴り始め、静留は口をぎゅっと結んだまま何もいえずに固まってしまう。
そんな静留の、今度は髪の毛を東弥は掬い、その場所にも優しく唇を落とした。
「さらさらの黒い髪も好きだよ。いつまでも触っていたくなる。
それから、淡い唇も、囀るような綺麗な声も、宝石のような瞳も、透き通るような白い肌も、全部好きだ。だから…。」
たくさんの場所に、数えきれないほどのキスを落とされる。
その言葉の、口づけの、一つ一つに甘く溶かされ、静留はとても幸せで、けれどあまりにも幸せだったからこの先に何かとてもよくないことが起きるのではないかと考えてしまった。
だから、の後の言葉が怖い。
東弥が緊張した面持ちで言葉を切ったのを、どうしてなのかと不安に思う。
彼の唇が動くのをやけにゆっくりに感じて、静留はごくりと唾を飲み込んだ。
「…だから、俺のパートナーになってください。」
そう言って何かを手に握らされ、その正体に気づいた静留は驚いて大きく目を見開く。
ぶわっ、と目元から涙が溢れ出した。
そして今更のように東弥と初めて繋がることはこれを渡すための儀式でもあったことを思い出す。
__これで、ほんとうに、東弥さんのパートナーになれる…。
手に握らされたのは、三日月のチャームがついた黒いcollarだった。
嬉しくてなかなか泣き止むことができない静留の身体を東弥は優しく抱きしめ、とんとんと赤子をあやすように背中を叩いてくれた。
「おねがいっ、…しますっ…。」
震える声で紡ぎながら受け取ったcollarを彼に差し出せば、うなじに静留の大好きな指が柔らかく触れる。
「誕生日おめでとう。この世界に生まれてきてくれてありがとう、静留。」
しゅるり、と優しくリボンが解かれて。
collarをつけながら紡がれた言葉に、また静留は大粒の涙をこぼした。
お願いだから、もうこれ以上優しくしないで欲しい。
涙が溢れて止まらなくて、ありがとうを言うことができないから。
「そんなに泣いたら目が溶けちゃうよ。」
結局、東弥の舌に涙を掬われてびっくりして固まるまで、静留が泣き止むことはなかった。
そして泣き止んだ静留には、ありがとう以外にもう一つ、伝えたい言葉ができていて。
「東弥さん、ありがとう。あの、ね、…僕も、…愛してる。」
今度は東弥が驚いたような表情を浮かべ瞳を潤ませる。
“好き”、はわかっていたが、“愛してる”、の意味をわかっているかというと、今まで答えはNoだった。
しかし行為中になぜか静留が覚えた切なさや、彼が幸せだと言った瞬間に静留が感じた大きな幸せを思ったとき、どうしてかその言葉がぴったりと当てはまるような気がして。
「ありがとう、静留。」
東弥の顔面に陽だまりのように優しく幸せな笑みが咲く。
なんて素敵な日だろうと思ったら、また静留も幸せな涙をこぼしてしまった。
ふと窓の外に目を向ければ、綺麗な満月が浮かんでいる。
その満月に静留は、心の中で願った。
__これからもずっと、こんなしあわせがつづきますように。
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