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(幹斗side)
「さて、東弥も行ったことだし、はじめようか。じゃあ、まずはエプロンをしよう。」
ドアスコープで東弥が去ったことを確かめたあと、幹斗は静留に買っておいたエプロンを差し出した。
「うん!」
“着せて”、というようににこにこと両手をこちらに差し出してくる静留の様子が微笑ましく、幹斗は思わず頬を綻ばせる。
両手を通したあと後ろでリボンを結んでやると、近くの鏡を見た静留が大きな目をきらきらと輝かせ始めた。
「うさぎさん!」
興奮したように弾んだ高い声が響く。
そう、幹斗が今彼に着せたエプロンにはチョコレート色のうさぎのマークが散りばめられているのだ。
1週間前に静留がホワイトデーのお菓子を作りたいとお願いしてきた後、静留に似合うと思ってプレゼントがてら購入したのだが、思った以上に似合っていて可愛らしい。
「うん。静留君にプレゼント。気に入ってくれた?」
尋ねれば、静留は心底嬉しそうに笑んでぴょんと踵を弾ませた。
「あのね、ありがとう!うさぎさん、かわいい。」
「それはよかった。邪魔になっちゃうから髪も結ぼうか。」
「うん!」
「じゃあ、背中をこっちに向けて…。」
静留に背を向けさせ、指通りのいいさらさらの黒髪を慎重に2つに結っていく。
そうしていよいよお菓子を作る準備が整ったのだが、静留の姿を見て幹斗はふと考えた。
__…これ、お菓子なくてもこの格好の静留君だけでホワイトデーになるんじゃ…。
「幹斗さん…?」
首を傾げた静留に不思議そうに瞳を覗き込まれ、はっとする。
せっかく静留が東弥に秘密にしてまでバレンタインのお返しをしようとしているのに、その気持ちを無駄にするなんていけない。
「ごめん、ちょっと考え事してた。じゃあ、まずは粉類を測ろうか。今日作るのはね、このお菓子だよ。」
気を取り直し、幹斗は静留に見えるようにメニューを開いた。
幹斗の言葉に頷いた静留が興味津々と言った様子で真剣にメニューと睨めっこを始める。
作るのは、一口サイズのガトーショコラ。
100円ショップで見つけた可愛らしいカップを使って、ホワイトデーらしい見た目に仕上がる予定である。
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