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100.決意 2
親父が建之…?
日付は…十年以上前だった。
…信女
女性だ。
享年は思ったより若く母のそれと僅かにしか違わない。
一体誰なんだろう…?
芳野叔母さんなら知ってるだろうか…?
叔母さんに尋ねることを考えて一気に憂鬱な気分になる。
「わざわざ、いいか。」
婚約破棄の様になってしまって以来、叔母には会いづらくなっていた。
こちらから全く連絡を取っていなかったし、叔母の方は後始末に忙しいらしく、翔に文句を言ってくる気配もない。
「はぁ…。」
それにしても色んな墓石があるもんなんだなぁ…
そのお墓の横のほうにあるのはやけに小さない墓だし、その横には見慣れない形のモノもある。
けっこうバラエィに飛んでいるんだと、不謹慎な事を考えていた。
彼の幻影に惑わされてこんなところにまで来てしまった。
結局、また自分がどれだけ領くんに傾倒していたかを、思い知らされただけだった。
こんな気持ちのまま、いつか忘れられるんだろうか…
もしもう一度チャンスさえあれば…
「はぁ…。」
そんな、ありもしないことを考えて溜息が漏れていた。
智と優の二人は、墓参りから自宅に帰って、当然のように抱き合っていた。
結婚式のことで、いつもとは違う盛り上がりを見せたにも関わらず、彼らは喧嘩をした。
結婚式でどっちが女役をするかで収まりがつかなかった。
『どっちでもいいじゃん。 別にドレス着ろって言ってないんだし。』
「じゃあ、優が右ね。」
『何でそうなるんだよ。 いい加減にしないとドレス着せるぞっ。』
「ドレスなら優の方が似合うよ。」
想像した。
本当に似合うかも…
『こらっ、何、おかしな想像してるんだよ。』
「いや、似合いそうだと思って…。」
『本気で言ってんの…? あんたが着た方がメチャクチャ可愛いと思うよ。』
「/////。」
『童顔なんだし…やってみる…?』
「やらない!」
伸びてきた手が、汗でぐっしょりと濡れてしまった前髪を、やさしくかき上げる。
本気で可愛いって思ってる愛おしむ眸…
恥ずかしくって仕方がない。
智は思わず瞼を閉じていた。
「バカ…。」
『バカッて、何だコラッ!』
「とにかく俺は絶対左。」
『俺が左なの。』
「俺だって言ってんじゃん。」
『…。』
呆れて瞼を開けると、片眉を吊り上げて優が俺を見る。
「なっ、なんだよ。」
グイッ、
覆いかぶさってくる。
押さえつけられて身動きが取れなかった。
「やめなさい。」
『せっかく、疲れてるだろうから、あれで止めてあげたのに。』
「はっ…?」
『そーんなにお仕置きされたいなんて…。』
「俺はそんなこと言ってないぞ。」
『ほんと大変だよ、俺の奥さん欲しがり屋さんだから。』
「おくっ、誰が…う…ぐっ…。」
だが、そんな苦情はあっさり塞がれてしまった。
部屋には…
甘い息づかいが響いていた。
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