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95.訪問者3(2)
『実の父親が…? そんな馬鹿な…そんな…。』
「姉さん…?」
『もう大丈夫なの…?』
「ああ、今はその相手が本当の父親じゃなくって、真っ赤な偽物だって分かったから。今後は智が肩代わりさせられるって事はないよ。」
『偽物って…どういう事…?』
「智を迎えに来た父親が実は智の父親でも何でもなかったってこと。」
『なっ…。』
姉は驚きを隠せない様子で口に手を当てたまま黙っていた。
さすがに強烈な内容だったかもしれなかったが、それでも説明しないわけにはいかない。
「気分が悪いなら説明はこんどにしよう。」
『待ってよ。そんな事言ってないわ。もっと詳しく説明して。』
「詳しくって…。」
『知ってる事は全部話して。あーちゃんが置かれた状況を知っておきたいの。』
恵は真剣な目で弟に迫っていた。
「…つまり母親の別れた旦那だったヤツなんだけど、実は智の父親でも何でも なかったってことが分かったんだ。もともと、借金の肩代わりが目的で智を捜していたらしい。」
『実の父親でもないのに…?』
「ああ。」
姉は不満そうな表情を見せて考え込んでいた。
そりゃあそうだ。
俺だって、未だに納得がいっていなかった。
母親の離婚した夫だからといって父親とは限らない。
櫻木家は弁護士に調べさせなかったんだろうか…?
『最近、噂になってるわ。』
「噂…?」
『あーちゃんの事…櫻木を出て、よそで実の父親と暮らしてるって。』
「へぇ…。」
またそんないい加減な事を。
『今まであーちゃんの話題なんてまったく出て来なかったのに、最近チラホラ遠回しに聞くのよね。』
本気で抹殺したいかの様に封印されていたのに今頃…?
『櫻木くんの「グループ」復帰と、何か関係あるのかしら…?』
「!」
その名前にドキリとさせられる。
復帰…?
つまり、全快しただけじゃないという事だった。
「すごいね…彼は……後継者から外されたんじゃなかったっけ…?」
『そう聞いてたわ。でも、能力的に認めないわけにいかないんでしょ。』
「まさか………記憶が、戻ったとか…?」
もしそうだったら…?
もしかしたら迎えに来るかもしれない。
いや…まだ居場所までは分からないだろうが、あの人は侮れない。
『確かめてないから分からないけど、それはないんじゃない…?あんな大変んな状態で地道に頑張って認められたって聞いたし…「秋山智」についての厳戒令はいまだ続いてるみたいよ。』
だが、実際のところは分からない。
それより、智にその事が知られる事の方が問題だ。
『何、青ざめてるのっ。』
「…。」
『しっかりしなさいっ!』
「姉さん…。」
『あーちゃんは、今は貴方が恋人なんでしょっ。』
皮肉にも、大倉に言われたのと同じ言葉を投げかけられていた。
『ほんと、アンタよりあーちゃんの方が何倍も大人だわ。』
そして、またしても大倉と同じく実の弟より智の味方になったようだった。
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