95.訪問者3(3)

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95.訪問者3(3)

「………あの、姉さん、悪いんだけど智の前で櫻下先輩の話は…。」 『しないわよ。私だってあーちゃんが、「サクラギ」 から追い出されたんだって事くらい、ちゃんと解ってるわよ。』 「ありがとう。」 いつ記憶が戻るかなんてわからないが、智は俺の恋人だ。 だからもう手遅れだ。 智は俺と新しく始めてるんだし、俺だってあの人を手放す気なんてサラサラない。 智だって、同じ気持ちのハズだけど… 優はどうしても不安が拭いきれないでいた。 長くその人に勝てなかったせいで、どうしようもなく自信を持てないでいた。 『ねえ、まさかとは思うけど、あーちゃんが櫻木家に戻る事ってないわよね…?』 「はっ…?」 どういう意味だ…? 『一応、あの亡くなった櫻木会長のお孫さんなわけだから、気になって…。』 そう言う事か。 櫻木晴夫… 『確か、翔くんと立場は一緒なんだって聞いたわ。』 立場が一緒…? 翔さん達の母親は櫻井晴夫氏の奥さんで、秋山さんの母親は正式には認知されていない、いわゆる外腹の子どもだと聞いていた。 「立場には圧倒的な差があるって聞いていたけど…?」 『私もそう聞いていたんだけど……それが、あーちゃんのおばあ様って晴夫氏の奥さんの双子の姉妹同士なんですって。』 双子…? 『同じ一族の人間だし、立場的にはいっしょだって、そう言ってたのって誰だったかしら…?』 自分の姉妹の旦那さんと、不倫をしたって事か…? だが、それだからか… 智があの家を追い出されたのは、跡継ぎ問題に巻き込まれたせいか…? 父親は、急な事故で亡くなってる。 後継者を指名する暇もなかったって事なんだろうか…? 智の事…随分と可愛がっていたらしいが、まさか、実の息子と血のつながらない息子だったら結果は一目瞭然だろう。 大きな組織には色んな人間がいる。 必ず一枚岩と言うわけにはいかなかったのかも知れなかった。 翔より智を担ぎ上げようとした大人がいたかもしれない。 『ねぇ。それはそうとさっきの、返す見通しはたってるんでしょうね…?』 「何が…?」 『だから、一千万。』 「ああ…心配いらないよ。」 『それならいいけど…。』 「何…? 信用ないなぁ…。」 『違うのよ、お母さんに知れないか心配で……お母さんはあーちゃんを知ってるわけじゃないから、知られる前に清算を済ませておいた方がいいわ。』 「解ったよ。」 何時だって味方をしてくれた姉さん。 キツイとこもあるけど、進学先の事で両親の大反対にあった時も、最後まで俺の味方だった。 「姉さん。」 『なに…?』 「ありがとう。」 『やだ、なあに…? 槍が降ってきそうだわ。』 照れ隠しにそんな事を言う。 姉弟っていいもんだなぁと、優はしみじみと思っていた。
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