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98.祖母(2)
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「柚加…。」
可哀想な娘だ…
女の幸せは、つくづく相手の男によるところが大きいんだと思わないではいられなかった。
『智を私から取り上げるんだったら…死んでやるっ。』
「柚加、なんてこと言うのっ。」
『私は本気よ、どうせ…。』
体中が痛い様な顔をする様子に、見ているこちらが身につまされていた。
柚加はずっと苦しんできたのにまだ苦しんでいた。
きっと、永遠に消えない苦しみだった。
自分には子どもを授からなくても柚加がいた。
そして、柚加には…
『どうせ、もう、子どもは生めないんだから。』
「柚加…。」
『私には、智だけ。この子を取り上げるなんて誰にも許さないっ!』
柚加は悲鳴のような声をあげた。
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柚加は、実の母親にソックリだった。
決めたことは必ずやり通す。
だから、後になってどんなに実の父親に進められても、櫻木の籍に入らなかった。
実の母親が死んでしまったからといって、その意志を無視するような事はしなかった。
葉月さんに遠慮の様なモノがあったのかも知れない。
彼女は小さい頃から柚加をとても可愛がっていた。
本当に仲のいい姉妹だった。
だから、余計奥様が警戒したのかもしれない。
櫻木の奥さまは、柚加に冷酷だった。
人のいい葉月さんをとても心配して、柚加をけっして葉月さんの妹だとは認めなかった。
何度も警告を怠らなかった。
決して不相応な事を抱かないようにと何度もたしなめられた。
だが、そんな彼女の態度が、増々姉妹を結び付けたなんてきっと知らなかったに違いない。
『本当かしら…。」
<馬鹿ねぇ、嘘に決まってるじゃない。>
『あの人…いつもはテレビなんて見ないのに…。』
コソコソと話し声が聞こえていた。
芸能人と知り合いだなんて話をそうそう信じるわけがなかった。
娘は死を迎える少し前、之啓さんと再婚していた。
すっと「櫻木」 に なって欲しいと思っていた願いが、とうとう叶えられた瞬間だった。
そして孫はあの 「櫻木」 にいる。
之啓さんが智を無下に扱うわけがないのは解っていた。
あの子は信じられないくらい 母親に ソックリ になっていたからだ。
数年前に智を櫻木の人間にすると書かれた手紙を受け取って、いよいよその時が来たんだと思った。
だから、今更父親の事を聞かれたところで答えるつもりはない。
生まれた時の事にはもう決して触れさせない。
全て、之啓さんに任せてあった。
智…
幸せにおなり。
柚加の分も、アンタはきっと幸せにならないといけないんだから。
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