99.決意 1(2)

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99.決意 1(2)

優は駅近くのカフェで智の墓参りが終わるのをじっと待っていた。 ついて行きたいのはやまやまだったが、一人で母親と話したい事があるといってきっぱりと断られていた。 「親戚に会うかもしれないよ」と、言ってはみたが、それでも大丈夫だからと言って固い決心は崩れる様子がなかった。 そこまで言われれば引き下がるしかない。 だが… 彼にはどうしても気がかりが合って悶々とせざる負えないでいた。 今日はお彼岸でも何でもない。 簡単に会うわけはないだろうが、やはりどうしても気になっていた。 まさかな… そんな偶然あるわけない。 そう言い聞かせながら悶々としながら待っていた。 機械音がして扉が開く。 見ると目当ての人がゆっくりと店に入ってくる。 何故だか妙にすっきりと清々しい表情。 それで、優には一人で行かしたかいがあったんだと分かった。 「コーヒー五杯も飲んだよ。」 『飲み過ぎだよ。』 「仕方ないでしょ。 他にすることもないし…。」 『わざわざ付いて来ることなかったのに…。』 「また、そんな可愛くない事をっ…。」 隣に座った智の手をこっそり握った。 『バカ、何やってんだ/////っ。』 「何…?」 『手…。』 「ふふっ…顏が赤いね。」 指がしっかりと絡み合っていた。 決して離さない。 今も、これからも… 少し休憩を取ったあとですっかり照れて俯いてしまった智を促すと、二人は連れ立てって店を後にした。 お洒落で可愛いイタリアンレストラン。 お進めピザにおすすめパスタを一品づつ頼みシェアする。 ピザは優が丁寧に取り分けた。 『お母さんと、何話したの…?』 「…。」 『まあ…無理に言わなくてもいいんだけど…。』 「決意表明。」 『決意表明…?』 「母さんは、おばあちゃんと並んで眠ってるけど、俺はその横に眠らないって…。」 優が少し驚いたように智をみる。 だが、智の方はそんな事知らんふりで、渡されたピザにかぶりついた。 『…そうだね。お母さんには悪いけど諦めて貰わないと…。』 「それから…モグモグ…。」 和風キノコピザは絶品だった。 「それから…愛人には二度とならないって宣言もしといた。」 『!』 「食べないの…? 美味いのに。」 智は、優にじっと見られているのはわかっていたが、そのまま普通に話をしていた。 今はもう、以前の様な関係じゃない。 お金を返す宛がなく行っていた関係だったが、今は恋人で愛し合っていて、もし、以前の様な事を再びしろと言われても智には出来きなかった。 『智…。』 「ん…?」 『あの…俺たちって日本で入籍は出来ないけど…。』 「…?」 『結婚式は挙げよう。』 結婚式って… だが、目の前には真剣な顔があった。 冗談でも何でもない。 本気で言ってるんだと分かって素直にうれしいと思えた。 「うん…。」 優が満足そうに微笑む。 『さあ、食べようかぁ…。』 「う……ん。」 『こんなとこで、泣かないでよ。』 「うるさいなぁっ。」 泣かすような事言っといて、優は平然としているように見えた。 でも、実際はそんなことない。 彼が智を茶化すのは、照れて感情を誤魔化すためだと分かっていた。 翔は、霊園のあちこちを探し回って、クタクタになっていた。 はぁ… 結局、これっぽっちも忘れられてなんかいないんだって、思い知らされる。 偶然でも会えるんじゃないかと思ったら、胸がドキドキし始めていてもたってもいられなかった。 ポツポツと歩いて道を戻って来る。 反対側の敷地ならともかくこちらはほとんど櫻木の親族だ。 自分の親族のお墓お参りに来たなら領くんに会うなんてあり得ない。 だが、諦めきれず捜していた。 そうとう重症だった。 綺麗な花が供えられたお墓が見えてくる。 俺以外にここに焼香に来た人間の…? 翔はその墓の名前が気になって近寄っていった。 古い方の崩れた墓石は半別もつかない。 でも、新しい方なら… 「櫻木…?」 そう前面に掘られていた。 親戚に、櫻木…? 「櫻」の一文字を使うならわかるけど、同じ「櫻木」は聞いたことがない。 それともなったくの部外者で他人の「櫻木」さんって事…? この敷地に中でそれはあり得ないだろう。 でも… 祖父の墓があるのは違う一画だし、後は芳野叔母さんと…他は知らない。 俺の知らない親戚があるんだろうか…? 翔はなんとなく側面を見て驚く。 そこには建立者として、「之啓」と彼の父親の名前が彫られていた。
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