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幸せで平和な日常… 二人でまったりできる貴重な時間を、転寝をして過ごしてしまった事を、優は後悔していた。 「智っ。」 『ん…?』 不思議そうな顔をしている智の手を掴むと、引っ張って抱き込む。 『え…優…?』 いきなり訳が分からない様子の智だったが、口を啄むと すぐに大人しくなっていた。 『「ちゅっ、ちゅっ、くちゅっ、はぁーっ。」』 あ… 柔らかい唇が腫れぼったくなって、物欲しそうに ピンク色に染まっていた。 優は、すぐさま、また味わいたくなって口付けた。 隙間から舌を挿し込むと、迎え入れる様に舌が絡んでくる。 可愛い舌が… ぺちゃっ… 髪から甘い香りが漂っていた。 「お風呂入ったの…?」 『そうだよ、優たら、ガチ寝してんだもん。目、覚めたんなら入っといでよ。』 「わかった…。」 頷いた俺に智がふんわり微笑んだ。 ここで暮らし始めた頃には、とうてい見られなかった智の本来の笑顔。 むかし、優がよく見ていた大好きな笑顔がここにあった。 「…先に寝たらダメだよ。」 ちゅっ、 『分かったから…早く。』 少し焦っているのに気づく。 あくまで、のんびりとした言い方しかしない智の行動からは、そういった感情が他人には分かりずらいものだが、さすがに長く一緒にいる優には分かるようになっていた。 急いでお風呂を済ませて欲しいみたいな様子から、当然、期待してもいいんだろうと優はほくそ笑んでいた。 クスッ。 ピッチョンッ… パシャッ、パッシャッ… 暖かい湯船に浸かると一日の疲れが癒されていく。 「はぁ……。」 思いのほか疲れていたのかもしれない。 とうに、むかしの出来事となった事を夢に見てしまった。 しかも智があんな… あの時、智は助かったし、しっかり抱きしめたまま二度と離さなかった。 病院には必ず大倉をつけて、それこそ見張らせた。 チンピラ二人は最初は不満そうだったが、多額の現金を握らせて黙らせた。 沼木も同じように金で黙らせた。 あの時は毎日、気が張り詰めていて、本当にグッスリ寝たことなんてなかった。 それは智も同じだった。 常に苦しんでいて、何も受け付けず、全てを諦めていた。 それが何が原因かなんて、簡単に察せられた。 貴方を本当に苦しめる事が出来る人間なんて、この世にたった一人だったんだから… バシャッ、 「ふーっ。」 俺が許せないのは、そうやって散々智を苦しめて、あんなになるまで追い詰めた事だ。 :-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:- :-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:- 「翔くんのお母さんが亡くなったのが、俺と母さんのせいだから…」 :-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:- :-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:-:-:+:-:+:-:+:-:+:-:+:- 真相は分からないが、智は本当にその事に怯えているようだった。 そんなに、恨まれていたって事か…? 信じられない。 だが、それなら彼自身が、もっと早く智をあの家から追い出すべきだった。 そうしたら、あんな酷い追い出され方をしないで済んだのに… 悔やまれてならない。 時間は掛かったかもしれないけど、そうしてくれたなら… いや、考えるのは止めよう。 智は俺とやり直したいんだと、言ってくれたんだ。 それで十分じゃないか。 それに… 屈託のない笑顔が頭に蘇る。 ホントによく笑うようになった。 笑って、時には怒り、そして泣いた。 哀しくって泣くんじゃなくって… そう考えて、涙を溜めながら自分を見る眸を思い出すと、軀が熱を持ち始める。 優の脳裏には全身で喜ぶ智の妖艶な姿が思い出されていた。
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