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第13話 到着2日目・昼その4
私たちはパパデスさんの部屋を出て、談話室へ向かった。シュジイ先生はパパデスさんの診察のため部屋に残った。
この『右翼の塔側』3階の頭のすぐ前にあるパパデスさんの部屋を出て、廊下をまっすぐ、右手側のスエノさんの部屋、左手側のシュジイさんを過ぎると、左手側はシープさんの部屋で、右手側にエレベータールームの扉があり、そこをさらに階段のある広間に突き当たる。
そこから右に折れて右の窓側通路をまっすぐ『左翼の塔側』へ向いて、左手側一番手前の部屋が、談話室だ。(※見取り図参照)
※或雪山山荘・3階の見取り図
私たち、私・ジョシュアとコンジ先生、ジェニー警視、アレクサンダー神父、シープさんとカンさんが、部屋に入った時、そこにはすでに数人の人たちが集まっていた。
イーロウさんとエラリーンさん、そしてビジューさんとジニアスさんです。
彼らは私たちが入っていくと、一斉に視線をこちらに向けた。
「みなさんで、いったい何の話をしてたんです?」
単刀直入にイーロウさんが切り込んできた……。
みんなもやはり気になっていたのでしょう。そりゃ、館の主が警察と探偵と医者を呼び寄せて別途、話をしていたのですから、何なのかと疑問に思わないほうがおかしい。
「あー。それは、被害者の死亡時刻など再確認して、今後の防衛策について話をしていたのですよ。」
ジェニー警視がしらっとごまかした。
彼女はあくまでもさきほどのパパデスさんの意見通り、みんなには人狼の件は伏せておきたいのだろう。
私はコンジ先生のほうをちらりと盗み見るように見ました。
やっぱり不機嫌の様子ですね……。コンジ先生はみんなに包み隠さず話すべきだというお考えだったようですからね。
「オオ! みなサマ! 神を信じるのデス! 神はいかなる時もみなサマとともにあるのデス!」
アレクサンダー神父も神父さんなりにみんなを落ち着かせようと言葉を発したようです。
初めて会った時は、ちょっと変な人……うん、ずばり狂人の類(たぐい)かと思ったものですけど、案外まともな人だったのかもしれませんね。
「そうなのですね。まあ、狼かなにかの獣のしわざでしょう? 戸締まりに気をつけていれば大丈夫なんじゃないかしら?」
「そうだよね? エラリーン。」
相変わらずこの二人は楽観的な感じなようです。
「しかし、狼がこんな人のいる館に入ってくるなんてな。信じられんなぁ……。」
「こわいね……。何か身を守る武器とか持っておいたほうが良いんじゃないかなぁ……?」
ビジューさんとジニアスさんは危機意識があるほうだと思われます。
よくあるホラー映画とかじゃ、エラリーンさんとかイーロウさんとかこういう危機意識がない人から犠牲になるものですけどねぇ……。
「どんな獣かはまだ明らかではありませんが……。みなさん、夜は部屋の鍵をしっかりかけて決して部屋の外に出ないようにしてください!」
「ええ!? 夜の間、ずっとかい?」
イーロウさんが不服そうである。
「そうですね。死にたくないのなら……ね。」
「そんなぁ……。そんなおおげさじゃあないかなぁ? ねえ。じゃあ、エラリーン。ずっと夜は一緒にいようか?」
「そうねぇ。それもいい考えですわね。それなら安心だものね。」
はいはい。どうぞリア充はご勝手に……ってところかしら。まあ、実際、二人でずっと一緒なら安心かもしれないし……。
あ……! この二人のうちのどちらかが人狼が化けた姿だとしたら……、危険というか……確実に犠牲になっちゃうのかもしれないけど……。
「じゃあ、まあ戸締まりをしっかりして吹雪が止むまではこの館内で過ごすしかないね。」
「自由行動……でよろしいの? シープ?」
イーロウさんとエラリーンさんは早く出て行きたそうであった。
「ええ。それはもちろんかまいませんよ。」
「あ、じゃあ、僕も遊戯室でまたビリヤードでもしようかな。」
「ほほう……。ジニアスさん……。ではワタクシもご一緒させてもらっていいですか?」
「もちろんですよ。ビジューさん。」
そうこうしているうちに、みなさん、それぞれ談話室から出ていってしまいました。
それからコンジ先生が、成り行きで出ていこうとしたアレクサンダー神父とジェニー警視とカンさん、シープさんを呼び止めました。
「ちょっと。みなさん。少し確認したいことがありましてね。残ってもらってもいいですか?」
「ええ。まあ。かまいませんが。」
そして、人狼の存在を知っているメンバーだけが残ったのです。
その時、コンジ先生がおもむろに疑問を呈した。
「やはり僕はね……。獣がどこから、いつ入ってきたかが気になっているんだよ。さきほども確認しましたが、カンさんは夜11時に館の扉や窓をすべて閉めたんですよね?」
「ええ。間違いございません。いつもの決まりなのです。」
「ふむ……。するとその獣は23時以前に館内に侵入していたと考えられるね?」
そうだわ! コンジ先生の言う通りです。扉や窓が開いていたとか割られていたというようなことは発見されなかったということでした。
ならば、戸締まりをした時間の前にその獣……人狼がこの館内に侵入していなければ入ってこれないということになるわ。
そうなるとコンジ先生の指摘通り、23時にカンさんが戸締まりと見回りをしたその時間の前に館内に人狼はいたことになりますね。
「アレクサンダー神父! 例の獣は2階の窓から侵入が可能な能力など持っているかわかるか?」
「フム……。その悪魔の獣は肉体は強靭ではありマスガ……、不死身というわけではないと聞いてマス! 銃でもシヌ。また、力も人間の2倍程度しかないトネ……。」
コンジ先生がこの時、神父さんに質問をして確認したことは重要なことでした。
つまり、館の2階や3階の窓から出ていくことはできても、侵入してくるとこはなかったと考えてよいでしょうね。
は!! コンジ先生! ……ということは!?
「そう! ジョシュア。君も気がついたかね?」
「ええ。先生。獣は館内に1階から侵入したと限定される……。」
「なんだ!? そんなの……! 当たり前じゃないか!? 人狼と言っても狼なんだろう? 2階や3階の窓から侵入できるはずなかろう……?」
ジェニー警視が何を言ってるんだ……というような顔をして反応した。
しかし、私やコンジ先生は、確信めいた表情を浮かべていた。
そう。悪魔のような獣、不思議な能力を持つ人食いの化け物・人狼だからと言って、無理なことは無理なんです。
そして……。最初、人狼伝説や神父さんの話を聞く前は、館に侵入してきた獣がどこかに隠れて潜んでいて、それに気づかず戸締まりをした……と考えられていました。
ですが、人狼の存在を知っている私たちには、そうではないということがわかるのです。
「いいかい? 人狼が館内に侵入した後、誰も犠牲にせず、深夜まで隠れて潜んでいて、アイティさんを襲った……と考えるよりも、侵入した時点で誰かがすでに犠牲になり、その者に化けてなりすまし、アイティさんもその手にかけた……と考えるほうが自然なんじゃないか?」
一同はコンジ先生の発言にハッとした表情を浮かべた。
そうなのです。つまり、館に侵入したのは深夜ではなくて、それ以前……。
そうだとすれば……、人狼はその時すでに誰かを襲っていたのであれば、侵入経路など……可能性はいくらでも考えられるということになります。
つまり、よくみなさんの行動を聞く必要がありますね。23時まで誰かと一緒にいた人は除外してもいいでしょう。
夕食後、23時までのアリバイがない人が、怪しいということになりますね。
「コンジ先生!」
「ああ。みんなのアリバイ確認だ!」
「はい!!」
~続く~
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