第10話 到着2日目・昼その1

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第10話 到着2日目・昼その1

 私、ジョシュアとコンジ先生がこの『或雪山山荘』に到着して2日目の朝を迎えました。  この日の朝は、ドアを叩く音と、私を呼ぶコンジ先生の声で私は眠りから起こされたのです。  珍しいこともあるものだ……。コンジ先生に起こされるだなんて!  いつもは私が起こしに行かないとぜんぜん起きてくれないのに。  「ジョシュア! 無事か? オレだ! コンジだ!」  コンジ先生の珍しく必死な声がドアの外から聞こえる。  私は部屋のドアの鍵を開け、眠気の残る声で返事をした。  「ふぁーい。聞こえてますよ……。コンジ先生。いったいどうしたんですか? って今、何時ですか?」  「ああ。ジョシュア! 無事だったのか!? いや、返事がなかなかないからどうしたのかと思ったよ……。」  「ええ……。あ、まだ、朝6時じゃないですか!?」  私は自分の腕時計を見て、まだ朝食の時間には早いということに気が付き、こんな朝早くに起きているコンジ先生に疑問をいだいた。  「うむ。僕もシープさんに起こされてね。大変なことがあったんだよ。こうして、みんなの無事を確かめてるってわけさ。」  「え!? 大変なことっていったい……?」  「アイティさんが……。殺された……。」  私たちは1階玄関ホールに来ていた。  死体発見現場はここだった。  死体の第一発見者はメッシュさんである。  朝食の準備のためにメッシュさんは朝5時に起きたという。  その後、まだ暗いうちにキッチンへ向かい、一人で朝食の準備に取り掛かったという。  キッチンはメッシュさんの部屋の目の前だ。  その際は特に何も気が付かなかったという……。  だが、ちょっと用を足そうとキッチンの外に出た時に、異変を感じたという……。  キッチンの前の廊下に、何かを引きずったような跡があったからだ!  1階の廊下は大理石でできていて、いつも管理人のカンさんが掃除をしているため、ピカピカに輝いていた。  朝起きたばかりの時は、廊下に電気をつけていなかったため、気が付かなかったらしい。  点々と赤い染みと、それが引きずられたような跡が、廊下に続き……。  ……それは玄関ホールに続いていたのだ。  メッシュさんは玄関ホールへ続く扉を開けて、絶句した……。 09a364e4-29da-4975-8220-979ca2514b02  そこには、見るも無残な恐ろしい惨劇の光景があったのだ。  人間(?)と思わしきそれは、おびただしい血の池の真ん中に浮かぶように佇んでいた。  腸(はらわた)が引きずり出され、臓物を周囲に巻き散らかしたその有様は、まるで何かの獣(けもの)に襲われたようでもあったー。  およそ、ヒトの仕業とは思えなかったのだ……。  メッシュさんは慌てて、シープさんを呼びに行き、その後カンさんを呼んだ。  シープさんもカンさんもまずは、この大変な出来事をどうすべきか迷ったが、シープさんがパパデスさんに報告に行くとともに、カンさんがジェニーさんとコンジ先生、シュジイさんにまずは知らせるべきだと考えた。  やはりまだ、他のお客様には知らせるのはパパデスさんの指示を仰いでからにすべきと判断したためだ。  そして、コンジ先生たちが1階の玄関ホールで死体を検分することになったのだ。  シュジイさんがしばらく死体を調べていたが、獣に食い殺されたのだと結論を出した。  そして、コンジ先生とジェニー警視が死体を検分してなにか手がかりはないか簡単な確認をしていたところ、シープさんが玄関ホールに戻ってきた。  「パパデス様のご指示で、警察へ連絡を取ろうとしたのですが、電話線が切断している様子で……。おそらくこの吹雪のせいで何らかのトラブルがあったかと思われます。」  「携帯電話は通じないのか? あるいはネットや無線では……?」  コンジ先生がそう尋ねる。  「それが、あいにくこの館は無線や携帯電話のような電波が非常に届きづらい地形でございまして……。普段は有線のケーブルでつながっておるのですが……。」  「それもつながらない……というわけだな?」  「はぁ……。そのとおりでございます。」  「うーむ。では誰かを麓の村まで行かせるしかあるまい!」  ジェニー警視がそう言って、カンさんのほうを見る。  カンさんが何事か言いかけたが、シープさんがそれを制した。  「ジェニー警視。それは危険すぎます。この周辺の天気は1週間は吹雪が続きます。しかもまったく前が見えないくらいの猛吹雪でございます。無事にたどり着けるか……。」  「だが! 昨日はここにいるキノノウ氏を迎えに行って帰ってきたではないか!?」  「たしかに仰るとおりです。ですが、吹雪の1週間の初日はまだ比較的、風が穏やかなのです。しかし、2日目……今日からはもう歩いて麓の村にたどり着くのは……不可能でしょう。」  「じゃあ、どうするんだ!? 1週間もこの館に閉じ込められたってわけか?」  「そ……それは……。」  シープさんも困ってしまっている様子だった。  「君たち! こんなところで言い争っている場合じゃないだろう? とりあえずは、みんなに知らせることが必要だろ? それにこのまま死体を放置しておくわけにも行くまい。」  「それはそうだな。」  コンジ先生の指示で、ジェニー警視が写真を撮った後、死体をカンさんとメッシュさんが、とりあえずは『右翼の塔』側の階段室の地下に安置することにした。  そして、2階のダイニングルームにみなを集めることにしたのだった。  こうしてコンジ先生は私を部屋まで呼びに来たというわけでした。  その後、私たちは2階のダイニングルームに集まった。  昨日と同じ席順で座る。  ただ、アイティさんの席だけは空席だったがー。  そして、パパデスさんからアイティさんが亡くなったことを知らされた。  シュジイさんが死因を話す。  「死因はおそらくは窒息死。なにか大型の肉食獣にのどを噛み切られ、呼吸困難になった結果と推測されます。」  「窒息死だって!? ちょっと待て。じゃあ、あのおびただしい血痕は何なのだ?」  「いえ。直接の死因は……という意味ですよ。のどを噛み切られたため、声は出せなかったようです。まあ、腹も食い破られて、内臓を食いちぎられているので、仮に呼吸ができていたとしても、失血死していたとは思われますがね……。」  「なるほど。じゃあ、まだ生きている間に食われたと見るべきか……。」  「ちょっと待ちなさいよ! そんな獣がこの館内にウロウロしているだなんて! 早くなんとかしなさいよ!」  そう金切り声を上げたのは、公爵夫人エラリーンさんだった。  「そうだ。そうだ。」  「なんとかしろ!?」  ビジューさんとイーロウさんもそれに追従するかのように口々に言う。  しかし、パパデスさんがそこをさえぎって発言をした。  「みなさま。静粛に! 今、管理人のカンと執事のシープ、召使いのメッシュにこの館をくまなく調べてもらっておる。それを待っていただきたい。」  「……なにか武器のようなものはあるのですか?」  コンジ先生が質問をした。  「うむ。『右翼の塔側』の警備室に、猟銃が2丁に拳銃が1丁あるので、それを持たせておる。獣が潜んでいたら撃ち殺すゆえ、安心なされ。」  「ほう。猟銃の種類は? 空気銃ではあるまい?」  「キノノウ先生のおっしゃるとおり。ライフル銃と散弾銃が各1丁ずつだ。」  「拳銃の大きさは?」  「大型のハンドガンだ。やはり狩猟用だ。」  「他に銃はないのか?」  「救命用のロープ銃があるくらいだ。」  「あとは武器になりそうなものは?」  「ふーむ。サーベル……くらいか。」  「今、ここにその獣が襲ってくるという可能性があるのではないですか?」  「ああ、それは大丈夫だ。『左翼の塔側』と通路側の扉は鍵をかけてある。今、みなさんが入ってきた『右翼の塔側』の扉は今さきほど内側から鍵をかけてあるのでな……。」  シンデレイラ家の女性陣は、顔が青ざめていて、一言も発しなかった。  まさか、自分の別荘でこんな事件が起こるだなんて思いもしなかったでしょう……。  他のみなさんは、ひそひそと隣の人と何事か会話をしている様子でした。  そうして待っていたところ、『右翼の塔側』の扉を誰かがノックしたー。  コンコンコンッ! コンコン!  扉を開けると、散弾銃を持ったシープさんであった。  その後ろには、同じく猟銃とハンドガンを持ったメッシュさんとカンさんの姿が見えた。  「どうだった? なにか発見したか?」  「いえ……。それが、何者も発見できませんでした……。」  そんな……!?  アイティさんを襲った獣はいったいどこへ行ったというのでしょうか……?  ~続く~
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