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日常 ①
「………どうして、ピアノ買ってくれないの?」
「…………………………………。」
「約束した通り、テストで百点取ったでしょ!」
「………別に、買って上げないとは言ってないわよ。でも、買わなくても使えるピアノが何処かにあるのだったら、それを大切にすれば良いって事を言ってるのよ。」
「それって、柏葉小学校の古ぼけてるピアノの事を言ってるの?」
「古ぼけてるだなんて、ピアノに対して失礼でしょう。どんなピアノだって、使い続けていると何時かは古ぼけてしまうものよ。それに、アナタのピアノ好きがいつまでも続くとは限りませんもの。悔しかったら、プロのピアニストにでもなって御覧なさい。そうすれば、少しくらいは考えて上げても良くってよ。」
「………分かったわよ。………ママのケチンボ!」
その少女の日常と言えば、母親とのその様な会話のやりとりから、その日の朝が始まる。
母親の梓は、一人娘の美亜を学校へ送り出してから、自分自身も近所のスーパーマーケットへパートに出かける。母子家庭の一般世帯であると言うならば、それが常識なのかも知れないが、子供の我が儘にストレスを感じてしまった場合など、梓は隣町にあるスナックへパートに出掛けて、他人の愚痴を肴にドンチャン騒ぎ。
それでも済まない場合は、梓は決まって鏡台に向かって呟くのである。
「………ねぇ。………アナタ。………美亜も面倒な年頃になってしまって。私、これからどうすれば良いのかしら?」
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