竹藪の声

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 シクシク、シクシク…。  今日もまたあの泣き声が聞こえる。  家から小学校へ行き来する時に通る道。その一部に、左右五メートルくらいの竹藪があるのだが、最近、そこを通ると必ず泣き声が聞こえるのだ。  何度も気のせいだと思おうとしたり、泣き声ではなく、何か別の物音だと信じようとした。  でも、何度も聞いて子供なりに確信した。  絶対にこれは泣き声だ、竹藪で毎日誰かが泣いている。  親に話しても気のせいだとあしらわれるだけ。それでも根気よく何度も訴え続けたら、私の心配が消えるならと、両親は竹藪を探索してくれることになった。  休みの日、両親と私の三人で竹藪に向かい、付近を色々見て回る。その途中で父が大声を上げた。  竹と、周辺に生える雑草の中に、隠すように置かれていた大きな黒いビニール袋。それを見つけた父はすぐさま中身を確かめ、その直後に悲鳴を上げたのだった。  袋の中には人の死体が入っていた。  隣町で捜索願が出されていた行方不明になっていた女の子で、死後、何ヶ月も経過していたということは、後々、警察からの説明で聞いた。  遺体が見つかったことで犯人も程なく捕まったが、遺体の発見の原因となったその子泣き声。それがどうして私に聞こえたのか。その謎は結局解けないままとなった。  でも、今は何となく判る。元々私自身が『そういうもの』を聞き取れる体質なのだろう。  高校を卒業した後、私は進学のために上京した。そしてそのまま、大学卒業後も都内で働いている。  故郷と違い、ここには竹藪なんてないでも、死体を捨てられるような場所はあの土地よりもっとたくさんある。  ろくに片付けもされてないような、ガラクタだらけの路地裏。濁って数十センチ先も見えないような水路。空き家になったまま何年も放置されている潰れた店。  そういった場所の近くを通るたびに、色んな所から泣き声が聞こえるの。ううん、泣き声だけじゃない。  あの時は、竹藪に捨てられていた女の子の泣き声だけが聞こえた。でも今は、老若男女の声がする。泣いていたり喚いていたり叫んでいたり、様々に、怒りや悲しみを訴えている。  だけど私はもう、その声には耳を貸さないと決めたの。  あの時ですら結構な騒ぎになり、本当のことを言ってるのになかなか信じてもらえなかった。  犯人がすぐに捕まったからよかったけれど、事件に関与しているのではと両親まで疑われて、当時は、泣き声のことを話した自分を責めもした。  今、これらの声に耳を貸せば、亡くなった人達の遺体を見つけることはたやすいだろう。でも、死者の声が聞こえたなんて話、世間はまともに信じてはくれない。犯人が見つからなければ、下手をしたら私が犯人扱いされかねない。  だからもう、何が聞こえても聞こえないふりをすると決めた。この先、私が平穏に暮らすためにはそうするのが一番だと思うから。 竹藪の声…完
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