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「彼女は本当に晴れ女なのでしょうか?」
それはあまりに意外なひとことだった。俺は思わず瞬きをした。
「いや……全部晴れたって言ってたから"晴れ女"だと思いますけど……」
「そうでしょうか?」
呆気にとられながら返答すると、彼女は黙々と語り始めた。
「例えばですよ? 今すごく雨が降ってますけども、それはあなたのせいではなく、実は私のせいかもしれませんよね?」
実に変な質問だ。だが彼女の顔は至って真剣だった。
「まぁ……あなたも雨女だとしたらそうかもしれませんが……」
「それです」
彼女はまた言葉を強めた。
「彼女だってそうです。実際は彼女自身が雨女で、ご家族やお友達がたまたま晴れ男や晴れ女の集まりだったかもしれない。今まで雨の日に当たらなかったのは彼女自身の力ではなく、実は周りに助けられていただけだった……だからあなた自身はもしかしたら晴れ男かもしれませんよ?」
彼女は微笑み、俺の目の前に薄緑のマグカップを置いた。
「ご注文のコーヒー置いときますね。お客様は"おふたつ"注文されているので、おかわりする場合はまたお声かけください。ではごゆっくり」
そして静かに会釈をするとそのまま厨房へ帰って行った。彼女が去ってから俺はひとまず注文したコーヒーに手をつけた。マグカップからは深くて温かな香りが漂っている。
「ふぅ……」
ほっとする。この安堵感こそコーヒーの醍醐味だと俺は密かに思った。
店内から再び外の様子を伺うと、さっきより窓を叩く音も小さくなり雨は少しずつ弱まって来ているように見えた。
「雨、止むといいな……」
俺は何をするでもなく窓の外を眺めていた。自分自身の、または誰かの"晴れの力"を信じながら、俺はただただコーヒーを啜っていた。
【完】
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