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「美咲、今日吹奏楽部はなかったのか?」
「水曜日はもともと休みなの。先生は楽器が水にやられてしまいそうで水曜日は休みたいらしいの。翔太こそ今日サッカー部なかったんだね。」
「当たり前だよ、雨降ってるし。うちの学校のグラウンドの水はけの悪さ、お前も知ってるだろ。」
雨が降る中僕と美咲は一緒に下校をしていた。僕は高3になり、サッカー部のキャプテンとして気持ちが引き締まっていたのにも関わらず、朝からの雨で部活が休みになった。大会の前ともあり、サッカーは何としてもやりたかったが、グラウンドは水たまりだらけで、スポンジで吸っても吸っても水が減らない。サッカーはどんな天気でさえできるスポーツだと思われているが、大会前に風邪を引いては困ると部活の顧問の先生話し合い、止む無く中止とした。意気消沈のまま帰るその道の途中で幼馴染の美咲と会った。
美咲は家が近く、小学校の時はよく一緒に登下校をした。中学に入ってからはそれぞれ部活があり、自然と一人で帰宅するようになった。
「そういえば一緒に帰るの久しぶりじゃない?」
「ああ、小学校の時以来だから5年ぶりくらいか。」
「なんかお互い変わったよね。翔太すごい身長伸びたんじゃない?」
「まあね。」
「いいなぁ男子って。あたしはもう成長期止まった気がするもん。」
肩の長さまでに揃えられたポニーテールがピンクの傘の下で揺れる。その傘の下で毛先が少し濡れている。改めて美咲は変わった。
「お前は髪伸びたよな。昔は男みたいに短かったじゃん。」
「うん、そりゃ髪くらい伸びるよ。」
僕と話すたびに上目遣いになっている。はっきりとした二重の目は天賦のものなのだろうか。
「何見てるの。」
気づいていたのかとずっと美咲を見ていた僕は素早く目をそらす。雨で冷えた頬が火照る。変に思われないように何とか話を逸らそう。
「べ、別に。あーそういえばお前か、彼氏とかいないのか?」
「いないよ。別に好きな人もいないし。」
「ふーん。ま、まあお前にいるわけないもんな。」
照れ隠しのいたずら心に僕はしまったと思った。
「それはどう意味なのかな?」
美咲の傘が僕の傘にぶつかり、顔を僕に近づけようとしてきた。雨は強くなっていく。前髪が濡れ、顔にくっついていた。目をうるうるさせている。僕は、思わず「かわいい」と小さく呟いてしまった。
すると美咲も急に声が小さくなって今なんて言ったのと言い、僕から顔を離した。
「も、もう知らないんだから‼」
そう言い残し、水たまりも気にせずに駆けて行った。
僕は口を滑らせてしまった。かっと恥ずかしくなった。土砂降りの雨の音に隠れてしまいたいと思った。しかし、美咲が走り去ってからは雨がどんどん弱くなっていき、家に着くころには雲間に夕日が現れた。彼女がどんな気持ちだったのか。僕は一度クスっと笑い、家の戸を開けた。
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