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想いの重さ
ピンポーン
部屋居るとインターホンが鳴る。
「は〜い!」
僕はウキウキしとした気分で玄関へと向かった。
今夜は麻緒衣が料理を作ってきてくれるからだ。我ながら、花より団子な性分だ。
ドアを開けると、麻緒衣が立っていた。
あれ? 今日はてぶら……?
「ご飯は……?」
「じゃん!」
そう言って、麻緒衣は僕の目の前にブリを差し出す。
「うわっ!」
差し出されたブリはまだ生きていて、元気よくもがいている。
「い、生きてる〜!」
少し恐い……。
「佐菜ちゃん、生きてるお魚見たことないの?」
「あるけどさ……これから自分が食べるんだと思うと、気味悪いよ……」
「うふふふ……」
「もしかして、これからさばくの?」
こっくりとうなずく麻緒衣。
「魚は鮮度が命だから。少し時間はかかるけど、佐菜ちゃん、待っててね」
「うん」
麻緒衣はエプロンをすると、華麗な手早さでぶりをさばいていく。
僕は隣に立って、ふむふむと様子を観察する。
「それが噂の3枚おろしか……」
麻緒衣は僕がいることも忘れて真剣に料理に集中している。そんな麻緒衣を見ていると、何か手伝いたい気分になった。
「麻緒衣、何か手伝おうか?」
「いいよぉ〜。佐菜ちゃんは座ってくつろいでて」
「だけど、僕にもできること何かあるだろ?」
「そうだなぁ……」
麻緒衣はしばらく考えると、いつもの麻緒衣からは想像つかない回転の速さで僕に指示を出した。
「佐菜ちゃん、お皿用意してくれる?」
「はい」
「お膳拭いた?」
「はい」
「炊飯器のスイッチ入れてくれる?」
「はい」
料理をしてる麻緒衣は人が変わったみたいだ……。
僕は麻緒衣の知られざる一面を見て驚いてしまった。
「お皿はもっと大きいのじゃないとダメだよ」
「ごめん……」
「大布巾はお水で濡らさないと拭けないよ」
「すいません……」
「炊飯器のコンセント、ささってないよぉ〜」
「失礼しましたっ!」
テキパキとした麻緒衣シェフの指示で僕は働かされた。……なんか、使いっ走りみたい……。けど、この後に美味しい料理が待ってると思えば頑張れる!
ひとしきりお手伝いが終わり、何もすることがなくなった僕。
席に座って、麻緒衣が料理する様子を黙って見つめた。
麻緒衣は無駄のなに動きで、ひとつひとつ丁寧に料理を作っていく。こんなに真剣な眼差しの麻緒衣は初めて見る気がする。
こうやって目の当たりにすると、何だか恥ずかしいな……。
「できた!」
「待ってました!」
飛び上がって喜ぶ僕の前に出されたのは、ブリの照り焼き。ツヤツヤと美味しそうに輝いている。
僕の口の何は唾液であふれかえった。
僕と麻緒衣は向かい合って、食卓を囲んだ。
ひとりで食べる夕食に慣れていた僕にとっては新鮮で、少し落ち着かない気分。
「いただきま〜す!」
「いただきます」
う〜ん、美味!
ちょうど良い火加減で焼かれたブリに生臭さはまるでない。
味付けも文句なし!
ご飯がいくらあっても足りないくらい、食が進む進む。
「麻緒衣、プロ並みだな」
「また、オーバーなこと言って〜」
「本当だってば。今まで食べた中で一番美味しいブリの照り焼きだよ」
「佐菜ちゃん、褒めすぎだってば〜」
麻緒衣は照れくさそうに顔を赤らめる。
こんな美味しい食事、毎日食べられたらなぁ〜。
「麻緒衣が毎日ご飯作ってくれたらうれしいなぁ」
「えっ?」
麻緒衣は驚いた表情で僕を見つめる。
やっぱり、厚かましいお願いだったよな。
麻緒衣にとっても負担だし、迷惑な話だ。
僕は自分勝手なお願いを口にしてしまって公開した。
「うん」
「うんって何が?」
「わたし、佐菜ちゃんのご飯毎日作りたい」
「さっきのは冗談だから、気にしないでいいって。変なこと言ってごめん」
「わたし、作りたいの」
「気を遣うなよ。そんな面倒くさいこと、引き受けなくていいんだよ」
「うぅん」
麻緒衣はぶんぶんと首を横に振る。
「わたし、佐菜ちゃんにご飯作ってあげたい。そうしたいの」
「けど……」
「わたし、少しでも佐菜ちゃんのお役に立ちたいの。それに、美味しい美味しいって佐菜ちゃんが喜んで食べてくれると、わたし凄く美味しい」
「麻緒衣……」
「わたしが毎日ご飯作るの……佐菜ちゃん迷惑? 負担に思っちゃう?」
「そんなことあるわけないよ。こんな美味しいご飯毎日食べられるなんてホント嬉しい。願ってもないことだよ」
「本当に?」
「うん」
「嬉しい! わたし、頑張るね!」
麻緒衣が帰り、ひとりになった僕はぼんやり考えた。
結局、麻緒衣は僕に毎日ご飯を作ることになり、張り切っていた。
僕としても、麻緒衣の手料理を毎日食べられるのは嬉しいこと。
麻緒衣本人も僕に作ってあげたいと心から言ってくれてるようだけど……。
僕は、麻緒衣に迷惑をかけてしまうようで、少し心苦しかった。
素直に喜べきなのかな?
その夜は結論が出せないまま、僕は眠りについた。
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