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 倉田さんの苦労は、食事の時にも感じ取ることができます。寮内工場の指導補助は介助を行うことが役目の一つですが、当然食事介助も含まれます。僕らが箸を使うのに対して、寮内工場の受刑者たちはスプーンを使うことが多いです。  倉田さんもそうなのですが、やはりろうそくを持ち上げる時のように不安定な手つきです。何度もこぼしてしまいますが、看守は放置を許しません。  刑務所の中では、ゴミを捨てることすら許可が必要です。僕も新入りの頃、メモ書きを何気なくゴミ箱に捨てたら後で看守に叱責されました。落とした食事は、よほど汚れていなければ器に戻され、食べることを強いられます。  看守が倉田さんの食器に戻したのは椅子や膝で止まったものだけでした。倉田さんは思いがけないものを目にしたような顔を見せましたが、看守を見上げるのは思いとどまりました。  倉田さんは食事中、食べ物をスプーンですくい損ねた他、むせ込みもありました。人間歳を取ると食べ物を飲み込みにくくなるのは、身を以て経験しています。他の受刑者たちもそうですし、僕よりも三十歳は年上のはずの倉田さんなら仕方のないことでしょう。
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