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 着替えを終えた阿澄さんは、ドラゴンのタトゥーは隠れているもの、両腕の猛獣たちはしっかり見えています。生まれ持った顔は厳ついままですが、眼光は少しだけ和らいで見えます。 「まあ、僕が失敗しましたから」  阿澄さんの隣に座りながら、雑居房を見回しました。  雑居房の定員は六名です。部屋の隅にはトイレ、洗面台があり、他には食器棚、私物置き場などもあります。十畳余りの広さに皆が布団を敷いています。ずっと同じ空間で暮らしているせいか、僕らは互いのパーソナルスペースにひどく敏感です。互いの領域には立ち入らないことを不文律としていますが、なかなかそうもいかないのが、僕らの同囚たちです。  たとえば、一五四一番さん。彼は腰が曲がっており、手も満足に動きません。  続いて、一一三六番さん。比較的若いのですが、耳が聞こえず目も不自由です。  更に、一三六九番さん。この人は排泄機能に問題があるようで、作業中よく漏らします。  そして、一八七七番さん。もはや独自の世界で恍惚の人状態です。  暗黙の了解、不文律ということが理解できない人たちばかりです。僕や阿澄さんの持ち場である寮内工場で刑務作業をする人たちは、娑婆なら介護サービスが必要なのが明らかな人たちです。さすがに刑務所へ介護士を派遣する民間企業は見つからなかったのでしょう。どこかの政治家が主張する、介護士の公務員化が実現すれば良いと思います。
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