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「阿澄さんもありがとうございます、すぐに来てくれて」 「気にするな。けがでもされたら俺たちが困る」  どう見ても普通の社会人ではない阿澄さんは、屈託なく笑います。刑務所ではなく、お互いに懲役刑に処された身の上でなければ、おそらく僕らは一生会わなかったでしょう。  僕と同年代の阿澄さんはその風貌が示すとおり、堅気ではありません。渋谷や新宿を根城にする半グレ集団の一員だったそうです。  罪状は傷害致死で、十二年の実刑判決を受けています。対立するグループの幹部を拉致した上暴行して死なせた他、何件かの器物損壊罪にも問われているそうですが、僕の目には多少荒っぽいながら気の良い男に見えます。  そんな感想を口にすると、阿澄さんは途端に真剣な顔になって、 「お前騙されるなよ。そんなだとこの先生きていけねえぞ」  そう諫めたのです。僕には阿澄さんのドスの利いた声が、心からの忠告に聞こえました。  刑務所内の自由時間は夜七時から九時までで、時間が来ると問答無用で消灯です。小さな常夜灯が一つついているだけの暗闇の中で朝を待ちます。  服役前は、まだまだこれからとばかりに酒を飲むピッチを上げていたことを思い出します。二度とあんなことはやらないと、格段に早まった就寝時間を迎えるたびに決意するのです。
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