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 しかし口調は悩みを吐露するように沈鬱で、書き手である僕自身も鉛筆が重いように感じます。実際倉田さんは、息子への手紙にもかかわらず終始他人行儀な言葉遣いに徹しています。訥々とした語り口は、言葉を探しあぐねているのでしょう。 「どのようにして私の居場所を知り得たのかは問いません。しかし、このような手紙は二度と送らないでください」  僕は手を止め、倉田さんを見遣りました。彼は不思議そうな眼差しを向けてきます。  どうやら言い間違いではないようです。僕は困惑しつつ、言われた通りの言葉を書きました。  受刑者は塀の外との関係を極端に制限された身分です。服役前は当たり前のように言葉を交わしていた相手と許可がなければ語らえず、その内容にもチェックが入ります。いくつもの制限を乗り越えてやってきた手紙に対して、有り難がるどころか自ら遠ざけるような反応が不可解です。  そして、差出人である慎一さんも不憫だと思いました。倉田さんの口ぶりだと、彼は自ら調べて父親の居所を突き止めたようです。そこまでしたのに突き放されたのでは報われないでしょう。
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