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 数日後、僕は倉田さんと独居房の外で会うことになりました。別の工場から寮内工場へ転属してきたのです。  僕は指導補助として倉田さんと挨拶は交わしましたが、決して心地良さは感じません。僕らの間には一度拒否があって、互いに顔を合わせるとどうしてもそのことを意識してしまいます。僕らはいつもの通り、刑務作業に勤しむ人たちの手助けをしていきました。  寮内工場での刑務作業は、他とはかなり違います。刑務所内の掃きだめとも言われ、他の工場では作業についていけない人たちが集められます。造花を作る作業や、紐を解く作業はまだマシで、それさえできずにただ座っているだけという人もいます。僕が時々排泄の世話をする植田さんは、精神的な調子が安定していれば紐の結び目を解けますが、今日は何だか良くないようで、ただ座っているだけです。  看守はそんな態度を強く咎めることはしません。何を言っても、もはや通じないとわかっているからです。  僕は晩年の母を思い出しました。苛立ちから、母を罵倒する言葉を投げつけたことがあります。後でひどく後悔しましたが、母はその時表情を変えずに聞いていました。
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