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その時は気にしなかった僕ですが、翌日の刑務作業に倉田さんの姿はありませんでした。
一日が終わった後、各房の見回りをする僕は、倉田さんの独居房を覗き込みました。
「一六四四番」
倉田さんの番号を呼ぶと、弱々しい返事がありました。
「具合はどうですか」
「あまり、良くないですね」
後で聞いた話では、むせ込みがひどかった食事の後から倉田さんは熱を出してしまったそうです。阿澄さんが言うには、誤嚥が原因ではないかということでした。
誤嚥というのは高齢者に多い食事中の事故で、口に入れたものや唾液が誤って肺に入ってしまうことを言うそうです。本来ならそうなりそうな時は激しくむせ込んで吐き出そうとする動きが反射的に起こりますが、高齢者の場合反射がうまく機能しないこともあるそうです。
誤嚥が起きると口の中の細菌が肺に入ってしまうため、肺炎を起こすことがあるそうです。そこまでいかずとも、熱を出すことがあります。本当なら独居房から出すべきでしょうが、医務室の職員はその判断をせず、解熱剤の処方しかしていないようです。阿澄さんはその対応を怠慢だと密かに憤っていましたが、僕も同感です。
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