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 しかし彼の提案に二つ返事はできません。今の僕にできることといえば、確かに介護の仕事でしょう。服役して一年ほどは指導補助をしていませんでしたが、その後の五年間はずっと受刑者たちの介護をしてきました。それは経験として話せるかもしれません。  問題は、元受刑者を雇いたいという職場がどれほどあるかということです。  まして、僕の罪状は要介護状態の母親を見殺しにしたことです。介護職として不適格という判断が下されても仕方ないでしょう。  僕は返事を保留しましたが、あまり長く考える時間はないと言われました。  職業訓練は、少なくとも半年かかります。つまり刑期が半年ないと学べないのです。  タイムリミットまであと一年近くあります。しかしここでの六年余りは本当にあっという間でした。日々を指導補助として暮らしているうちに、決断のタイミングを逃しているかもしれません。  面談を終えて、僕は雑居房に戻りました。今日は休日で、阿澄さんをはじめとする雑居房の同囚たちもテレビを見ていました。
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