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阿澄さんはテレビを見つつも、まるで漫画でも読むように介護福祉士試験の一問一答集を斜め読みしています。僕はそんな阿澄さんに話しかけました。
「その本、面白いですか?」
皮肉っぽく聞こえないように気をつけましたが、彼は少し怪訝そうな顔をしました。
「面白いとかじゃねえけど、何かこう、時間を少しでも有効活用したいんだよ」
阿澄さんはかなりの速さで文字を追っているようで、ページをめくる手も早いです。横で見ている僕は、二問目の問題を読むのでやっとでした。
「面談があったんだろう」
阿澄さんは僕を見ずに訊いてきました。
「介護福祉科を勧められました」
「良いじゃねえか、中杉さんなら俺よりも向いてるよ。俺はタトゥーを消すところからやらなくちゃなんねえし」
阿澄さんは腕をまくり、ライオンのタトゥーを見せてきました。確かにこんなものを見られたら施設は大騒ぎでしょう。
「阿澄さん、何で介護をやろうと思うんですか?」
以前訊いた時、彼は他にできることがないからだと答えました。僕も同じ立場だから理解できます。
「介護をやってりゃ、少しでも楽に生きていけるだろ」
それは初めて聞く答えでした。
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