雨晒し

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ある日。 君の部屋の前で。 ドアノブに手をかけたら。 鍵がかかっていた。 ドアに耳を押し当てる。 雨の音がしている。 ドアの隙間から。 水も漏れ出ている。 ドンドンと。 ドアを叩いた。 返事はない。 「今日も来たよ。  入れてくれない?」 答えはない。 インターホンは。 壊れたままだ。 「ねえ!  どうしたの?」 ドンドンと。 再び叩く。 すると。 磨りガラスの向こうが。 ピカッと光った。 続いてドドドドっと響く音。 雷だ。 こんなことは今までなかった。 玄関は開きそうにない。 アパートの裏に回る。 ベランダから。 中を覗き込む。 と。 再び真っ白い光が。 レースカーテンの向こうで弾けて。 ゴロゴロという地響きのような雷鳴。 君の姿は見えなかった。 悠長なことはしていられない。 鞄を振り上げて。 ベランダの窓ガラスに叩きつけた。 本が数冊入っていた鞄は。 ガラスを突き破って部屋の中へ転がり込んだ。 腕を突っ込んで鍵を開け。 ガラスの散らばった中へ駆け込む。 大粒の雨で。 一気に下着まで濡れていくのがわかる。 君は。 部屋の隅にいて。 幸いガラスの破片は飛んでいなかった。 壁の角に頭を押し付けて。 肩を震わせていた。 「出よう!」 肩を掴んで立ち上がらせる。 「いやだ!」 三度。 雷がバリバリと走り。 パラソルに落ちた。 ふざけた3原色のパラソルが。 一瞬で黒焦げになった。 とにかく出なければ。 君を引きずるようにして。 無理やり玄関に向かう。 いつもより雨足が強いせいか。 玄関に溜まった水の中に。 靴が魚のように浮いていた。 鍵のかかった玄関を開け放つ。 ドバドバと流れ出る水と靴と一緒に。 裸足の君を連れ出す。 水は。 2軒先のドアの前まで広がって。 コンクリートに染み込んでいった。 座礁したように取り残された。 靴を1足拾い上げ。 濡れ鼠の君の手を引いて。 自分も濡れ鼠のまま。 当てもなく歩いた。 自分のアパートへ行こうか。 でもこの格好で電車には乗りにくい。 君のアパートに。 鞄に入れて何もかも。 置いてきてしまっていた。 少し時間を潰して。 雷が去るのを待とうか。 そう。 思っていたら。 ぽつり。 ぽつり。 ぽつぽつぽつぽつ。 ざああああああ。 「雨・・・」 君が。 そう呟いて。 空を見上げると。 厚く膨らんだ雨雲から。 シャワーのように。 水のつぶてが降り注ぐ。 乾きかけた髪が。 再び濡れていく。 「あったかい・・・」 さわさわと降る。 ぬくい雨に包まれて。 君を抱きしめた。 なぜだろう。 今は。 君の部屋の雨も少しだけ。 穏やかに降っている気がした。
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