雨晒し

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君のアパートに行ってみたんだ。 中から。 何か音がしてる気がした。 インターホンは。 壊れていた。 ノックをしたけど、反応がなくて。 ドアノブをひねったら。 簡単に開いたんだ。 ワンルームの真ん中に。 君は座り込んでいて。 雨にうたれて濡れていた。 君の部屋には。 雨が降っていた。 バチャバチャと。 水浸しのフローリングに。 大粒の滴が降り続く。 君の髪も。 頬も。 本棚の参考書も。 パソコンも。 そばに転がったスマホも。 キッチンのシンクも。 壁紙も。 クローゼットも。 みんな濡れていた。 自分の足も。 濡れていく。 首筋も。 肩も。 持ってきた鞄も。 みんな濡れていく。 ドアを開けてしまったから。 外の通路にも広がっていく。 君の部屋の雨は。 いつまでもやまなかった。 翌週は。 傘を持っていくことにした。 長靴を履いて。 鞄にビニール袋をかぶせて。 やっぱり。 玄関は空いていて。 水が流れ出してきた。 長靴のまま上がって。 傘をさす。 君のそばにしゃがみ込んで。 傘の中に君を入れた。 「風邪ひくよ」 濡れた黒髪の隙間から。 君はこっちを見てくれたけど。 一言も発することなく。 水を吸ってぺちゃんこにつぶれた。 布団の上に横たわった。 ぐっしょりと濡れた毛布を。 自分の身体にかけようとする。 そんなことをしても。 寒いだけだろうに。 君の部屋の雨は。 いつまでもやまなかった。 その翌週は。 もっと思い切ることにした。 折りたたみ式の椅子と。 浜辺で使うような、大きなパラソルを持って。 雨の降り続く君の部屋へ来た。 隣に住む学生さんが。 怪訝そうな顔で。 パラソルと。 ドアの隙間から滲む水を。 交互に見ていた。 ドアを開けると。 ドアの前の通路に。 水たまりができて。 眉を潜めた。 気にしないフリをして。 君の部屋に入っていく。 「ほら、こっち」 パラソルの下においた椅子に。 君を座らせる。 一応服は変えているらしい。 先週と違う服を脱がせる。 恥ずかしいとか。 そういう気持ちは。 いったん置いておくことにした。 丸裸にして。 持ってきたバスタオルで拭う。 「こんなので悪いけど、着て」 スーパーで買ってきた。 下着とスウェットを着せる。 足元は水浸しなので。 椅子の上に膝を抱えさせて。 「寒くない?」 うなずいた。 君は少しだけ。 口角をあげて。 目を伏せた。 毎週のように。 君の家に行っては。 降り続く雨の中。 パラソルの下で一緒に食事をしたり。 傘をさして風呂場まで連れて行ったり。 濡れて壊れたパソコンを修理に出しに行ったり。 乾いた本を差し入れたり。 行くたびに君は。 雨にぬれて立ちすくんでいたり。 水浸しの床に倒れ込んでいたり。 その度に。 パラソルに引き入れて。 洗濯してきた服に着替えさせて。 温かいものを食べさせる。 君の部屋の雨は。 もうずっと。 やまないのかもしれない。 それはしょうがないのかもしれない。 それでも少しでも。 雨が弱まって。 君が暖かく過ごせる日が。 1日でも多くあってほしいと思う。
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