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「これが『呪』だ、タテノくん。……地獄に繋がれている罪人はすべて霊体であるから、どんな苦痛を受け、肉体の大半が損なわれるようなことがあっても、心身がほろびることはない。我々鬼が『活きよ』と唱えることで、罪人は見た目も元通りの姿に戻る」
俺は表情だけで「うわ……」と漏らした。
地獄行きとなった人たちは、体がバラバラになるほどの苦痛を受けても、意識を手放すことすら長くはゆるされず、休みなく責めを受け続ける――。
あまりに、過酷だ。
鬼の立場で言えることではないけれど。
「……他にも、罪人の動きを縛ったり、と、管理職にはいくつかの『呪』の使用が許可されているが、今日のところはこれだけで構わないだろう。鹿乃は模範的な囚人だから、反乱を主導するようなことはない」
「……俺に……今の『呪』とやらが、使えるんですか? 言葉だけ唱えれば?」
「鬼なら誰でも。だが、多少コツがある。ツノに意識を集中させる、と言えばいいのか……言葉で説明するのは難しいな」
「私の体で練習したらいいわ。監督さん」
俺たちの会話に割って入った鹿乃は、軽やかに、まるで置き傘を貸してくれるような調子で、申し出る。
ゴトーさんと彼女のやり取りをさかのぼって思い出すに、今見せられた首刎ねも、俺に対する『呪』の説明のため。
それだけでしかないのだ。
――確かに、元々はつぐないが必要なほどの罪を犯した人なのかもしれない。
だけど、こうして話している分には、どこまでもただの良い子にしか見えないし、もっと自分の体を大切に考えて欲しかった。
もの、みたいにぞんざいに扱うのでは、なくて。
「そんなわけには……」
「タテノくん。鹿乃の言う通りに。いざという時に『呪』が使えないと不便だからな。彼女も時間を無為にするのは好まない」
「……ゴトーさん……」
「わからないことは、彼女に聞いてください」
そう言い終わるや否や、あっさりゴトーさんはその場を立ち去る。
それほど急ぎの仕事がありそうには見えないのに、なにがOJTだ、と、俺は恨みがましく思ってしまった。
残されたのは、『呪』のかけ方も、地獄の常識も、右も左もわからない新人監督官――俺、と、
首を一刀のもとに跳ね飛ばされても、もうぴんぴんしている古株の囚人――鹿乃。
彼女がその気になれば、俺がかなうわけはない――。
目が合った瞬間、なにか、小柄な鹿乃の体から呑まれるような圧を感じた。
「ということですので、監督さん」
「鹿乃……。君は……何をして、こんなとこに……来たんだ」
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