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「極楽のことなら、人間が自力でそこに至るのは難しいな。生前善を行った人間が輪廻転生で向かう先は、天道、人道、阿修羅道の三つだ。最も善行を積んだ人間が向かうのが天道だが、そこで神となったとしても、死ねば再び裁きを受けて別の世界に転生せねばならん。輪廻転生を抜けて解脱を得るのは……ううん」 「…………」 「というのも年々理解されづらくなっていて、どうしたもんかなぁ。これもそろそろアップデートされるべき概念なのかもしれん。ほら、『正直わからん』と顔に書いてあるぞ、館野」 「……正直者なもので。……でも、その、……天道? っていうのは、いいところなんですよね」 「まあねえ~。でも君が行くのはそこじゃないから。最上等の善なんて積んだ覚えないでしょ?」 「はあ」 「このままだと、君が転生するのは、阿修羅道だ」 「そこは、どんなところなんですか……」 「んー……最低めな善をなした者の転生する世界?」 「……最低めな善って。そんなの聞いたことないですよ」 「つまりなんだろうな……。まーったく心の伴わない善のこと。いいやつだって周りに思われたいがゆえの募金だとか、博打で儲けた金を寄付するとか」 「……俺がそういう小さいやつだってことは否定しませんけど、そういうの、令和では『しない善より、する偽善』って言われてましたよ。そうあくどいものでもないって」 「あ、へえ、そうなの?」 「芸能人の被災地支援とかが、売名行為とか言われて、やたら落とされる風潮ありましたけど……。心の中がどうあれ、それで困っている人が助かるっていうのなら、悪いものじゃないんじゃないですか? やることなすことすべて正しい善人なんて、いないでしょ、実際は。会ったことあります? 閻魔さんは」  多分、俺がそこに当てはまったのは、周りの目ばっかり気にしていたからだし、偽善だってろくに行えていないくせに言えた立場でもないんだろうけど、なんか引っかかって、突っかかってしまった。  心証が悪くなっただろうか。この人が、この先の俺の運命を握っている相手なのに――。  逆ギレされたら、まずいなぁ。  と、相手の顔をうかがってしまうのが、どこまでも、俺は『最低めよりの善人』だよ、ああ。 「……私の感覚が、ずれているようだね。教えてくれてありがとう、館野。改めて考え直すことにしよう」  とりあえず、閻魔は気分を害した様子もなく、ほっとする。  第一印象通り、おおらかそうな人(?)だ。いい加減、でもありそうだが。 「いえ……生意気言いました」 「意見をあげてくるやつは好きだよ。反対意見があるのに黙っているやつは嫌いだ。私ひとりでは、間違いに気づきようもないのだから、言ってもらわなければ始まらん。やはり君は見どころがあるな。呼んだ甲斐があったというもの」 「……閻魔……さんが、俺を呼んだんですか」  地獄に堕ちるほどの大罪は犯していない、と言いながら。 「そうだよ。河原で奪衣婆(だつえば)に言われただろう? 地獄に行け、と。私が伝言を頼んだんだ」 「なんで……」 「リクルートだよ。君には私の下で働いてもらいたい」 「え。……は?」
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