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そう、すべては小さな町から始まった。滅多に雨の降らない南半球の遅れた集落。乾いた土地に水は恵みとして、陽気なその町人は雨と共に歌い踊って、喜んだ。
美しい雨だった。
雲の切れ間から差し込む太陽を浴びてキラキラと輝く。それは夜に輝く星屑のように煌めいて、手の内へと転がり込んできた。無辜の民は痩せ細った腕をめいっぱいに広げ、赤から紫へと変化するグラデーションを眺めた。そして、天に、方角に、偶像に、形のない神に、惜しみない祈りを捧げた。
雨は応えるように降った。強くもなく、弱くもなく、しとしとと絶え間なく、乞われるがまま大地を潤した。
それはどこまでも美しく、青い雨だった。
「雨が降る原因は知ってるかい?」
「基本は海面温度の上昇。大量の水蒸気やホコリなんかが上昇気流に乗って上空に移動して、気圧が下がって膨張し冷やされて、雨雲が生成される。……違ったかしら?」
「いや? 模範解答をありがとう。ミズ・リー」
だが──だが雨はそのまま降り続けた。それは水が波紋を描いて広がるが如く。急速に世界中へと手を伸ばした。少しずつ、少しずつ、雨雲は消えることなく増えて膨らんだ。
絶え間なく注がれ続ける雨の意思に、人類が気付くのは早かった。
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