宇宙は今日も雨だった

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「嬉しかったんだよ、雨雲は。一緒に歌って踊ってくれる人たちを見下ろして。だからずっと悦ばせたくなったんだ。世界を旅する放浪者が、ようやく根を下ろす場所を決めたんだ」 「理論的にって言ったでしょ。ただの自然現象を、意志のある生き物のように語らないで。そんなロマンチストで、よく科学者を名乗っていられるわね」 「そうかな? 科学者が一番ロマンチストだと僕は思うけどね。だから科学者でいられる」 「一応聞くけど、根拠はあるのかしら?」  男は目を細めた。それは彼女を通り越して何処か遠くの景色を眺めてるように果てない瞳であった。  ややあってから、ロバートは口火を切った。 「夢をみた、って言ったらどうする?」 「冗談でしょ?」 「僕が雨雲になって、世界を……宇宙を旅する夢さ。心を持って、存在して、生命として、当て所もなく長い長ぁい悠久の時代を彷徨い続けるんだ」 「馬鹿馬鹿しい」 「起きた時、僕は泣いていたよ。孤独な旅に胸が潰れそうだった」 「どうして自分が『雨雲』だったと判るの?」 「さぁ、どうしてだろうね。ただ『そう』だったとしか言えない」  女は黙った。男もそれ以上続けなかった。  そして同じ方向に目を向け、淡々と目減りしていく赤い数字を見つめた。それは今日も正確に時を刻む運命のカウントダウン。此処のあらゆる場所に取り付けられた「残り時間」だ。  足下にある太陽系第三惑星が、名実ともに「水の惑星」と呼ばれる姿になるまで、先程ちょうど半年を切った。
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