52人が本棚に入れています
本棚に追加
生まれつき心臓に病気があって、小さな頃から入退院をくり返してきた俺は、学校というものにあまり通ったことがない。
それでも小学生の頃は、学期の半分ぐらいは出席していたような気もするが、中学に至っては卒業できたことが奇跡だった。
中三の夏に大きな発作を起こして入院してから、もうすぐ一年になる。
安静にしている以外することもなくて、一人で勉強を続けているうちに、自然と高校に受かるくらいの学力は身についた。
特別措置で、病室で高校入試を受けさせてもらい、見事志望校に合格。
形ばかりひとみちゃんと同じ高校に在籍しているが、実際にはまだ一度も登校したことはない。
いつになったら登校できるのかもわからない。
けれど、それらのことに不満を持ったり、憤りを感じたりする感情を、俺はとっくの昔に放棄した。
俺が今置かれている状況だったら、人生を悲観したり絶望したりして、毎日をふさぎこんで過ごすことは簡単だ。
だけど俺はそんな無駄なことに、ただでさえ短いだろう貴重な時間を費やすなんて馬鹿な行為は、絶対にしたくなかった。
いつか自分が死んだ時には、
「海里君は本当に明るくて楽しい子だった」
と、笑い混じりでみんなには思い出してもらいたい。
その目標だけは絶対に譲れない。
だから俺はもっともっと強くならなくちゃならない。
自分を憐れむ気持ちや運命を恨む気持ち。
それはどんなに努力したって、俺の心にもくり返し忍びこんでくる。
それを全部追い出してしまうのは、本当に骨の折れる仕事だし、長い葛藤で実際何度も苦しんだ。
だけど、きっと長くはない人生だと、自分でもわかっているからこそ、俺は絶対に負けたくなかった。
心の中ではどんなに嫌な思いを抱えていたって、数え切れないくらいいろんなものと戦っていたって、それでもいつも、周りの人たちに見せる表面上だけは、笑っていたかった。
(俺はちっともかわいそうなんかじゃない……!)
その思いだけが、いつもしっかりと胸のど真ん中にあった。
けれど実際、今までで一番の長期になっている今回の入院には、さすがに俺も気分が下降ぎみだった。
「窓から見える景色を描くんだ」
と病室に持ちこんだスケッチブックも、春夏秋冬と全ての季節を描き終えて、鉛筆を持つ気も失せてしまった。
(俺が落ちこんでるんじゃないかって、ひとみちゃんは心配してくれてるんだよなぁ……)
なんだかんだ言っても、結局俺を気にかけてくれている従兄妹殿を、やっぱり窓からでも見送ってあげようと、俺は立ち上がり、さっきまで彼女がいた南向きの窓に歩み寄った。
最初のコメントを投稿しよう!