2.ふた月遅れの高校生活

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2.ふた月遅れの高校生活

 結局その週の金曜日、俺はひとみちゃんと伯母さんにつき添ってもらって、一年間を過ごした病室を、後にした。 「もう帰ってくるんじゃないわよー」  すっかり顔なじみになった看護師さんたちは、口々にそう言って笑いながら見送ってくれたけど、俺だってできるなら本当にそう願いたいと、自分自身でも思ってた。  退院したと思ったら、あっという間に逆戻りなんてシャレにならない。  だからこそ今まで以上の細心の注意が必要だ。 (特別なことなんて何もなくていいから。ただ平凡な毎日が飽きるほど続いてく。それだけでいいから……)  それは俺にとってささやかな、けれど切実な願いだった。 (普通に学校行って、伯母さんの手料理食べて、自分の部屋のベッドで眠って)  たかがそんなことが夢だなんて自分でも笑ってしまうが、こうしてもう一度その中に帰ってこれた今だからこそ、笑えるんだってわかってる。 (そんなことぐらい……なんて馬鹿にできない状況に陥る可能性だってある。でも大丈夫……俺は絶対に忘れない)  誓うように、今出て来たばかりの病院をふり返った。    真上に近い位置にある太陽の光が眩しくて、俺がさっきまでカンヅメされていた二階の西端の病室を仰ぎ見るのは難しい。  目の上に手で庇を作りながら、俺は目を細めた。  今は無人のあの部屋の窓から、どんな風景が見えていたのか。  俺はこれから先どこに行ったって忘れないだろう。  まるで目の前に広がっているかのように、いつだって描き表わせるだろう。    白い敷石に濃い影を落とす街路樹。  どこからか聞こえてくる鳥の声は、狭い病室に閉じこめられていた時とは比べものにならないほど、爽やかに耳に響く。  どこにいるのか目には見えないが、瞼を閉じると、大空に向かって飛ぶ力強い姿が、頭のキャンバスにはくっきりと浮かんだ。 (絶対、忘れない)  もう一度、心に誓った。
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