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「海里ぃーお帰りー!」
夕方、大学から飛んで帰ってきた五つ年上の兄貴は、まるで俺がまだ小学生の子供ででもあるかのように、ギュッと抱きしめて頬を寄せた。
俺の顔が無理矢理に押しつけられた位置は兄貴の肩の若干下のあたりで、そのかなりの身長差に内心ではムッとする。
けれど、
「良かったなー良かったよー」
わりあい整った顔を俺のためにクシャクシャに歪めて、大袈裟なくらいに喜んでくれることは素直に嬉しかった。
「よくがんばったな」
無理に休みを取って家にいてくれた父さんも、言葉は少ないながらも満面の笑みで石井先生のようにガシガシと俺の頭を撫でる。
その力強さが本当に嬉しかった。
一年前と何も変わっていない自分の部屋に、病院から持ち帰った荷物を運びこんで、机の上に載せたままずっと開かれることのなかった高校の教科書を、パラパラッとめくってみる。
(まあ、それなりに自分でがんばってたつもりだけど……ついていけるのかな……?)
苦笑しながら教科書は閉じて、今度はまだビニールに入ってハンガーに掛かったままの真新しい制服をつまむ。
(ほぼ二ヶ月遅れの高校入学か……)
多少のことには慣れっこになっている俺でも、さすがにこれは滅多にできない経験だ。
(いい思い出が、一個でいいから作れたらいいんだけどな……)
始まる前から、後でふり返った時の心境を心配するのは、ずいぶんと本末転倒かもしれない。
けれど、
(あんまりたくさん期待したら駄目だ。またそれを手放さなきゃならなくなった時に、未練なんて持ちたくない)
俺にとってその考え方は、防衛本能みたいなものだった。
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