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私はこんなに光貴が好きなのに、私を見ずに他の女の名前を口にしたこの男を憎いと思った。
自分の中の醜い感情が怖くて私は逃げた。「ゆい」が誰か、なんて聞きたくなかった。
何で?
いくら私が起こそうとしても起きないくせに、「ゆい」の声には反応するの?
「ゆい」がどこの誰かなんて知らない。でも「ゆい」なんか死ねばいいと思った。生まれて初めて、人に向かって死ねばいいと思った。
ごめんなさい。
「ゆい」さん、ごめんなさい。死ねばいいなんて思ってごめんなさい。死んだ方がいいのは私だ。体だけで光貴を繋ぎとめて。
私はその日から光貴を避けた。連絡がきても無視した。光貴はしつこく連絡してくるような事はしなかった。研究も忙しいし、私一人離れていってもたいして痛手じゃないんだろう。
普段の光貴は自分の研究の事で頭がいっぱい。
地元には可愛い彼女の「ゆい」がいるし、私なんか眼中にない。ただの性欲処理係。
水曜日に、光貴と共通の授業もサボって、学食で一人でケーキを食べていたら呼びかけられた。顔を上げると光貴がいた。
顔を見たら何だか泣きたくなった。会いたかった。でも会いたくなかった。
目が疲れてるのか、額にかかる髪を鬱陶しそうにかきあげながら、座っている私を見下ろしている。
格好良い。好き。
何度も体を重ねて、私は完全に光貴に溺れていた。
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