05. 私を見ない男

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 綺麗な黒髪、力強い腕、私を呼ぶ声、私の中を抉る全てが愛おしい。 「お前、まさかそれ誕生日ケーキ?学食でひとりで食ってんの?お前友達いないの?」 「……放っといてよ」 「なんで電話に出ないんだよ」  私は答えなかった。ゆいに嫉妬して、この関係にもう限界を感じてるなんて、そんな簡単に説明出来ない。  無視してケーキを食べ終わり、トレーと食器を返却して外に出た。光貴は無言でついてくる。後ろにいる光貴が言った。 「杏子、誕生日おめでとう。何か欲しいものある?」  欲しいのはあなたの心ですよ。  そう言えばよかった。言わなかった事をあとで何度も後悔した。  私が言ったのは真逆の事。 「ねーの?」 「……ある」 「何?」 「もう終わりにしたい」  終わるも何も、付き合ってすらいなかったのだけど。  振り返るのが怖くて、私はそのまま話し続けた。 「飽きたの?」 「うん、そー。飽きたの。じゃーね」  勝手に涙が出てきたから、私は走って逃げた。  光貴は勿論追いかけてこない。  ……捨てられるのが怖くて自分から壊したら、思ってたより辛かった。
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