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06. 忘れられない男
卒論の準備に忙しくなってきた頃、うちの大学の理学部が何か受賞したらしく、そこそこ話題になっていた。学内の広報誌を見せてもらったら、そのメンバー一覧に「草木田光貴」の名前が載っていた。
ああ、きっと光貴は努力を続けてたんだろうな、すごいなあと嬉しくなった。
駐輪場の隅っこ。昔、私と光貴が時々待ち合わせしていた場所に行ってみる。
もう照明も消されて真っ暗だけど、あの頃の様子が瞼に浮かぶ。
刹那に恋していたバカな私。2年生になると共通だった教養の授業もなくなったから、学部の違う光貴とは会う事もなくなった。あれから誰とも付き合う気になれず、私はずっと一人でいた。そろそろ、彼氏でも見つける努力をしようかな。そう思っていたら、忘れたくても忘れられない声がした。
「久しぶり」
振り向くと、そこに光貴が立っていた。会いたくて幻覚見てるんじゃないかと思った。
「杏子は元気?」
「うん、元気だよ」
「ふーん」
相変わらず素っ気ない。
まあ、私もそうなんだけど。
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