好きだと言って

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「パパ!」 3歳くらいの女の子が、わたしの横を全速力で後ろから追い越して、少し前を歩いていた青年の足に絡みついた。 その青年は、急に絡みついた女の子に足の自由を奪われ、その子を巻き込みながら転びそうになったところを、青年の横を歩く渋いおじ様が腕を取って支えた。 パパ。 と、女の子が呼んでいた青年は、パパと呼ぶには若過ぎるように見えるけれど、パパと呼ばれても法律上問題なさそうな年齢には見える。 渋いおじ様は、青年を呆れ顔で叱咤し体勢を整えさせ、女の子はニコニコ顔で青年を見上げながら手を繋ぎ歩き出す。 その少し先で、まだ少女にも見える女の子が、5歳くらいの男の子と手を繋ぎながらこちらを見て手を振り、何かを口にした。 わたしのところまでは聞こえなかったけれど、今度は渋いおじ様がヒラヒラと手を振り返し、お店の中に先に入っていろ、と言いたそうなハンドサインを送っていた。少女は首を傾げながら少し考え、よくわからなかったのか、そのままその場に大人しく待機した。 どこかで見たことのある光景に、胸が締め付けられた。 今なら、この渋いおじ様のハンドサインがわかる。 けれどあの日のわたしには、わからなかった。 ただ、嬉しくて、彼らに会えるのがただ嬉しくて、舞い上がって思考力が落ちていたのかもしれない。 渋いおじ様の背中を見ながらそう思った瞬間、後ろから聞き覚えのある声で悲鳴があがる。 ハッとして少女の方に目を向けると、その少女は手を繋いでいた男の子を遠くへ放り投げ、その身だけに暴走した車のボディを受け止め、入るはずだったお店に、その車に強制的に連れて行かれていた。 お店のガラスは割れ、壁が砕け、お店の中から人が慌てて飛び出してきて、その日の街の雰囲気は一変。 人々が右往左往と走り回り、例の青年は、手を繋いでいた女の子の手を振り解いて、少女が連れて行かれたお店に向かって全速力で走って行った。 置いて行かれた女の子は、渋いおじ様に抱き上げられ、その腕の中で泣き喚いている。衝撃的な言葉を発しながら。 「ママ〜!」 そこで、わたしは気がついた。 女の子のその声に、その呼び方に聞き覚えがあったから。 この子は、わたしの子だ。 そして、この女の子を抱き上げている渋いおじ様は、わたしのお父さん。 走っていった青年は、わたしの夫。 夫の向かった先にいるのは、あの日の、あの日のわたし。 その日以降の記憶はない。 わたしは...!
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