好きだと言って

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「ママ〜ママ〜!」 再び声がする。 あぁ。泣かないで、わたしたちの子どもたち。 遠のく意識の中で、わたしを呼ぶ声がする。 手のひらが温かい。強く握り締められているのがわかる。 「パパー!」 さらに強く握り締められた、わたしの手。 ギュゥっと力が込められていくその手に、何かが解けていくのがわかる。 体が軽くなり、ふわっと浮いていくようだ。 ふわふわと漂い始め、再び遠のく声に反して手のひらに全神経が集中していき、そこだけが熱を持ちドクドクと脈が打つ。 「戻ってきて」 絞り出すように語りかける声は、わたしの愛しの人。それだけはわかる。 ふわふわと漂いたい体の一点だけに重力と熱を感じ、そこに止まることしかできないもどかしさを訴えるため、声の主に話しかけたいのに、わたしの手を握るその重さに何もかも封印されてしまったようで、けれど少しずつ体全体に重さと熱が戻り始める。 「ママ!パパの日だよ!今日はパパの日なんだよ!!」 毎年、パパの日には、パパの好きなものを渡そうね。と、子どもたちと話をしていた。 それは、食べ物でもお花でもお話でもいい。何でもいいから、パパの好きなものをプレゼントしようと、決めていた。 「ママ!パパの、パパが...」 どんどん涙声になっていく子どもたちの声が少しずつ大人びていき、男の子の声を、夫の声と間違えそうになる。 手のひらの熱は変わらない。強さも、重さも。ただ、少しだけ、指に絡む指が細くなった気がするの。指から浮いた指輪が、わたしの指に押し付けられて、金属の硬さと冷たさで今までとは違うものが体を駆け巡り、今まで暗闇だった世界に薄っすらと光がさし始め、体が重力を受け入れ始めた。 光が、ぼんやりと光が視界に広がる。 パパの日。 その言葉が、頭の中にこだまする。 パパの好きなものを、パパに。 パパは、わたしの愛しい人。 その愛しい人に、好きものをあげたい。 パパ。あなたは今でも、わたしを好きでいてくれていますか?
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