ガチで婚活三十路前 〜ハイテンションな見合い相手編〜

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─quatre─  見た目と同じく服も地味、何年も男と縁遠かっただけあってデートに着て行けそうな服が無い。ここでファッションセンスのある素敵女子ってジャンルの人たちはあっさりセンスの良いコーディネートを思いつくんだろうけど。うん、私には無理です、買いに行かなきゃ駄目かなぁ? それもまた面倒臭いわ……こうして干物になっていくのね、一応まだ二十代なのに。 「しっかし地味な色合いだな、なつ姉のタンスの中」 「女子のタンスを覗くなっ!」  秋都まだいたのかよ、私は慌ててタンスの引き出しを仕舞う。 「タンス開けて溜息吐いてたら何事かと思うだろうが。にしても煮物弁当かと思うくらいに地味地味な……」 「放っとけ! 仕事用の着回しさえあれば困らないもの」 「悲しいこと言うなよ、そこそこの給料稼いでる独身女がよぉ」  秋都は苦虫を噛み潰したような顔で頭を掻いている。私だって悲しいさ、まさかここまで地味地味なタンスになっていたなんて……前回服買ったのいつだったかなぁ~? 思い出せないくらいに遠い過去だなぁ~。 「今日一日こうしてるつもりか?」 「へっ?」  急に何を言い出す弟よ。私は顔を上げて秋都を見る、こいつきょうだいの中で唯一の百八十センチ超えだから首が疲れる。 「服買うぞ、支度しろ」  秋都はぶっきらぼうにそれだけ言って部屋から出て行った。  という訳で今私は秋都に連れられて自宅から来た車で三十分掛けて大型ショッピングモールにいる。運転はもちろん私、秋都は自動二輪の免許なら持っているが、お馬鹿過ぎて学科試験に五度落ちるという伝説(?)付きだ。 「うしっ、片っ端から攻めてくぞ」 「効率悪すぎ、なるべくコンサバちっくな方が良いからそういうお店に絞らせてもらうわ」 「何言ってんだ、折角だからちったぁ冒険しろって」  秋都は私の手を引いてすぐ側にあるいかにも女子大生をターゲットにしてそうなお店に入った。いやいや、来年三十路の私には若すぎる! どちらかと言えばお向かいのお店の方が雰囲気に合ってると思うんだけど。 「いらっしゃいませ、久し振りね五条君」  とさすがアパレル女子、美人でお洒落だわ~なんて思ってたら秋都の知り合いみたいだ。 「おぅ。コレうちの姉なんだけど、デート向けの服選んでやってくんない?」  私は秋都に背中を押されてアパレル女子の前に差し出される。 「勿論喜んで。そう言えばお姉様にお会いするのは初めてですね、お兄様(・・・)は何度かご利用頂いていますが」  えっ? お姉ちゃんここでも服買ってたの? 「あき、あんた知ってたの?」 「おぅ、はる姉の付き添いで何度か来たことあるんだよ。仕事で着る服は時々ここで買うんだと」  へぇ……姉が利用しているお店と知って一気に興味を示すゲンキンな私。食わず嫌いは良くないかもといとも簡単にその気になるポリシーゼロの私。自分で言ってて虚しくなる情緒不安定なお年頃の私……そろそろやめときます、何だか悲しくなってきた。 「さすがごきょうだいですね、揃いも揃ってスタイル抜群ですよね」  確かに身長百六十三センチ体重四十八キロの私はどちらかといえば痩せ型だとは思うけど、私より身長の高いモデルかよレベルのアパレル女子に言われても嘘臭くて返事のしようがありません。まぁでもだからって『喧嘩売ってんのかワレコラ!』みたいな空気にする必要も無いので、取り敢えずアホの子みたいに愛想笑いで誤魔化しておく。 「お姉様って五条君と違って(・・・)知識が豊富そうですよね、お顔立ちも日本的ですから大人コーデでいきましょう」  良かった、店の雰囲気で勘違いギャルにされるかとヒヤヒヤしてたけどその心配は無さそうです。私はこの一言で一気に彼女を信頼し、結局この店で一式コーディネートしてもらったのでした。  それから大して何事も無い一週間を過ごし、今日はいよいよ霜田さんとデートである。彼も車を利用するそうで、ご親切に家まで迎えに来てくださることになっている。 「今日()一段と素敵よなつ、普段からもう少しお洒落に気を配ったら?」  姉は褒めてんだか貶してんだかよく分からないことを言いながらメイクを手伝ってくれる。まぁ仰る通りなんだけど……もうちょっと姉を見習おう。すぐそこのごみ捨てだけでわざわざ着替えてバッチリメイクするのもどうかと思うけど、それくらいでちょうどいいのかな? 因みに今日は出掛けないって言ってたのにいつでも出掛けられるようメイクも髪型も綺麗に整ってるもの。私? 休日は一日パジャマ姿ですが何か? 「あれ~? なつ姉ちゃん今日()綺麗じゃ~ん、張り切ってるね~」  天下のズボラ男冬樹がようやっと起きてきた、この子は可愛い顔して私以上にお洒落には無頓着、クッタクタのTシャツにヨッレヨレのデニムパンツでお洒落な街でも平気で歩く。一度なんか『面倒い』という理由でスウェットにスリッパという出で立ちで合コンに行った強者だ、さすがの私もそれは無理。 「そりゃ多少はね、身嗜みを整えるのだって礼儀の一つよ」 「う~ん面倒い、そんな暇あったら古文書読み漁ってる方が僕の為になるね〜」  どんだけ勉強好きなんだ……冬樹は『趣味は勉強です』を地で行く男だから子供の頃から勉強の虫だった。お陰で成績は常にトップ、特に歴史好きで大学でも日本史を専攻している。 「これからもお付き合い続けるつもりなの〜?」 「それは今日会ってみてから決める」 「だよね〜」  冬樹はふら~っとした足取りで下に降りていく。まだ未成年なので二日酔いという訳ではなく元からゆら~っとした動きをする。 「……っとできた、どうかしら?」  姉は大きめの鏡で私の後ろ姿を見せてくれる。今日は剛毛黒髪ストレートヘアをアイロンでゆるふわカールを作ってくれた、うわっ、我ながら上出来じゃない? 後ろ姿は。 「凄いっ、私じゃないみたい。正面見てガッカリされない?」 「されないわよ、正面見た上で気に入ってくださってるのに」  私はちょっと嬉しくなって自分の髪の毛をちょこっと触っていると玄関のチャイムが聞こえてきた。冬樹が下にいるはずだけど反応が無い、そこもズボラか弟よ。 「私が出る、その間に忘れ物無いかチェックしときなさい」  姉は下に降りてはぁいと返事してる、きっと時間的に霜田さんだと思う。はぁ~緊張してきたぁ~、と気休めに掌に人の字を三回書いて飲み込んでみる……何も変わりませんでした。
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