第1章 思い出味の紅茶と水の器

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両親のことを思い浮かべながら、両親に貰ったブローチを握りしめる。しつこく両親の死を意識していなければ、まだどこかで生きていると錯覚してしまう自分に嫌気がさした。 父は医者、母は小学校の先生、二人とも多忙でいつも家族一緒という訳ではなかった。しかし、その分休みの日は彼女をめいっぱい甘やかしてくれた。 「今日もある……」 独り言をこぼした彼女の目の前にあるのは一輪の花。事故から数日は白い花で溢れていたこの道も日が経てば自分の花だけになるだろうと思っていた千優はいつも気になっていた。 「お母さん、お父さん私はどうしたらいいの? 」 叔父叔母の家では言えない弱音を吐き尽くすのも、もはや日課となっていた。緑の木々と供えたピンクのスイートピーだけの空間。 千優は両親との思い出にあまりに浸りすぎて後ろからの人影に気づくことができなかった。
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